※捏造含んでます。
日々、数多くの人間で埋め尽くされた渋谷に設置されている、意味の分からないモヤイ像を何となく眺めていると腕を軽く叩かれて驚いた。忠犬ハチ公像の方は感動エピソードが付いてくるから納得出来ると馬鹿にしたのがいけなかったのだろうか。くるりと振り向くと、一人の女性が此方を見て笑っていた。
「…久し振り!」
「え」
像のことで色々考え過ぎた為か、頭が回らず少しだけ身を硬くした。が、暫くして雑然としていた脳が再起動した。
「雪ちゃん。…………うん、久し振りだ」
「大きくなっても面影あるね望君は~。あと凄い服のチョイスだね?あはは、ハワイにでも行ってきたの?」
「…………そんなわけ、ないでしょ。いや……そのうち行くかもだけど…………」
「…………望~君~?あんまりお腹見ちゃいやん。恥ずかしい」
視線が思いっ切り下に下がっているのが丸分かりで、雪はそっと両手でお腹を隠してえっちと可愛らしく悪戯した。
「あっ、ああ、ごめん。随分と大きいお腹だなと……いつ産まれるの?というか結婚してたんだ雪ちゃん」
知らなかったよ、純粋に吃驚した風間に向かって人当たりの良い笑顔で雪はごく普通にとんでもないことを発言した。
「うん、教えてないしね」
「……僕、実は嫌われてた系?」
「いやだあ、望君ったら。逆でしょ。キミが私のこと嫌ってた。ね?」
女の子第一がモットーな風間からしたら、その言葉は出鱈目で完全に雪の思い違いだと間違いを指摘すると楽しげに笑って一言。
「この子の父親、ゆきだもの」
「…………は!?……え!?……綾小路?」
『ゆき』という名前を聞いたとはいえ、余りにも予想外過ぎて思わず本人かどうか尋ねた。
「そ~よ。私が『ゆき』って言う人、思い当たるの一人しかいないでしょ?現実逃避ヨクナイヨクナイ」
「いやあ、あいつが父親…へえ…そういうの淡白だと思ってたよ」
「まあね、だから誘ってやった」
私グッジョブ、なんて親指を立てて踏ん反り返る嫁がいていいのだろうか。破天荒すぎやしないかと風間は頭を痛めた。
「ほら、ゆきって流されタイプだから」
「ああ、それは言えてる」
根が真面目なほど嵌りやすそうな雰囲気がある。だからこそ高校時代、綾小路のことで法螺話を作り出したといっても過言ではない。その後どうしたかは話すと長いのでカットしておく。
「しまった、弱みバラしちゃった!…………望君、ゆきを誘惑しちゃダメだからね!?」
「雪ちゃ~ん???僕、男にはキョーミないんですけど!」
「『男』にはね」
女の勘を舐めちゃいけませんよ。ちっちっ人差し指を横に振る雪の顔が凄く意地悪い。こういう時の女の子は大抵何かを掴んでいる、今までの経験から悟った風間は話題を逸らそうとした。
「あ~何だ、こんな所で話すのもアレだから…カフェ行かない?!」
「ごめんね。私、今買い物中だから。何処か行くのなら途中まで付き合ったげる、の・ぞ・む・く・ん」
「う……いや別に、これといった用事は無いんだけどさ」
「じゃ、愛しのゆきに会ってみる?」
「い!」
愛しのって何だ!慌てて突っ込むと勿論君の想い人だと躊躇いもなく人差し指を突き付けられる。居た堪れなくて、その場から離れようと一歩踏み出す。
「まあまあ、冗談はさておいて本当に会ったらいいよ~折角だしね!」
「ン……」
「でも今のゆきに会ったら絶対襲い掛かりそうで怖いな……本当にダメだからね!?」
「二回も注意しなくていいよ!っていうか、僕のこと何だと思ってるのさ!」
会わせたいのか、会わせたくないのかはっきりして欲しい。思わず突っ込みそうになった内容を言い換えると真顔な顔付きで、こちらを見詰めた。
「大人の独特な色気っていうか、ミョ~なフェロモンがあるのよね。私が言うんだから間違いないわ」
「雪ちゃんさあ…旦那に対してその評価どうなの」
「だってほんとに襲いたくなるもん」
「…………」
流石についていけず、黙り込むと雪の歩きがぴたりと止まった。気になって、倣うように雪の横に並んで立ち止まる。
「あ、……望君に襲われたゆきが私の為に頑張って事情黙る姿見るのもいいかもしんない!すごい罪悪感に満ちてて切なげに腕ぎゅってしてるのくそ萌える!!」
「ちょっと!?」
「もしくは夫の居ぬ間に上がり込んで無理やりか弱い妻を強姦しちゃって、それ知ってブチ切れて望君半殺しにする姿見るのもいいかもしんない!私、超愛されてる……」
「愛が歪んでる!!その前に、そんな物騒なことお腹の子に聞かせるんじゃないよ!」
恍惚の境地に入って涎を流しかけている雪を慌てて現実へと引き戻すと、少し目を見開いたが直ぐに笑顔に切り替えた。
「…望君っていいパパになれそう、ふふ」
「止してくれ、まだ自由でいたいよ。もう……」
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