02/抱き寄せキスしてせがんで愛して



「いい湯だったよ」
「そ、そうか。よかった」

ぽとぽと、濡れた髪から滴る水をタオルで拭うのを見る綾小路が気になりつつも僕は別のことを聞く。

「これ、君のおとうさんの?」
「あ、うん。いいよな?」

家に寄って用意するのが面倒でそのまま来た時から綾小路の服を借りることを予想していただけに、程よく肌に馴染んだ黒いスウェットの存在がおかしかった。長期出張でいない時に買った新品物だから大丈夫だと言われてピンと来た。

「もしかしておかあさん」
「父さんの所に行ってるよ」

随分と仲がいい両親だなあ。まあ、そうでなきゃ今時にしては珍しい天然が生まれるわけないか。自己完結して次の話題に移る。

「君はお風呂入らないの?」
「入るよ、うん……」

だから何で照れるんだ?
家に帰ってからずっと何かを意識して、落ち着きがない綾小路を見据える。

というより笑いたい。初夜じゃあるまいし…そそくさと僕の横を通り、部屋から出たのを確認すると直ぐベッドの下に敷かれた布団に入り込む。予め、用意されていたドライヤーで髪を乾かしながら、ちらりと小棚に置かれたデジタル時計を見ると22時を表していた。寝るにはまだ早い時間かもしれないだろうけど、少々綾小路を欺いてみようと考えた。

「よし」

そうと決めれば善は急げだ。綾小路が部屋に入るのを見計らって寝たふりでもするか。
編み上げた計画を心に留めて、さっさと髪を乾かしにかかった。







「あれ」

案の定、お風呂から上がって自室に足を一歩踏み入れたと同時に立ち止まった。直ぐに違和感を覚えた綾小路は此方にやってくる。

「もう寝たのか……?」

ぐうぐう。
狸寝入りを続けると残念そうな顔をして、弾力のある布団の上に座り込む。

「風間……ねえ、風間……」

風呂上りのいい匂いが此方にまで漂ってくる。揺すっても反応を見せない綾小路は手を引っ込め、少しずれたシーツをかけ直して耳元でおやすみ、と囁いた。

キスくらい許してやるのに何故か自制をかけて、ぐっと下唇を噛んで離れていく。クソ真面目だなあ、苛めすぎたかなあ。謝ろうと思えば謝れたけど、起きるの億劫になってきたし電気も消しちゃったし、まあいいや。

そのまま目を閉じていると、自分でも気付かぬうちに眠りに落ちていった。



*



「!?」

闇の中、急激に与えられた刺激で目が覚めた。は、ははは。
苛めすぎたかと罪悪感を少しでも持った僕が馬鹿だった。浅はかだった。そーだよな、よく考えたらこれくらいで諦めるような奴じゃないな!ぐっとシーツを握って、目一杯捲った。

「何してんの」
「っんぐ!」

見つかった驚きで、喉を詰まらせた。



「……夜這いっていうんだよ、これ」



「あ、いや、その、えっと……えっとだな………た、勃ってたから」
「…………」
「ごごごめん、嘘付いた。傍にいると思ったら我慢できなかった…………ちゃ、ちゃんと終わらせるよ、ちゃんと」
「そういう問題じゃないだろ!?」

上半身を起こして謝罪する代わりに舐め出す綾小路の頭を持ち上げると零れた唾液が一筋、糸を引く。えろい。

「はあー、こんなことする為に誘ったの?」
「い、いや、一緒にいたかったから誘った……」
「どーだか……」

呆れた顔を向けているのに、ぴくぴく脈打つ性器にご執心なようで握ったまま離してくれない。これは軽く拷問だぞ。

「か、かざま。続きしてもいい?」
「…………」
「ダメ?」

上目遣いしつつ、すっかり勃起した性器の筋を撫でながら甘噛みしている辺りで否定出来る奴がいたらお目にかかりたい。とりあえず欲を吐き出すことが先決だったので再開を促した。嬉しそうに奉仕を頑張る様が本気で淫乱くさ…んん、ミルクを欲しがる猫みたいだ。

「んっ、んー…んぷ、あまい、はっ、ん、ちゅ」
「っ、く」

ちゅうちゅう、亀頭をまんべなく吸われたり舐められたり刺激を与えられると流石に限界も来る。声を押し殺して精を放つと、口いっぱい吸ってぐびりと飲み込む動作がダイレクトに伝わった。

「君ってさぁ……」
「風間のなら幾らでも飲むよ、すき」

後に続く言葉が見つからず、黙っていると何を言いたかったのか予想して綾小路のべたべたになった口から出た返答はとんでもない告白で、恥ずかしさを通り越して全身の毛が逆立った。

「そういうことを聞いたんじゃない!ほら、終わっただろ!退けよ!」
「あっ、え……あ、う、うう、か、風間」

何だよ!文句言う前に、太腿に足を割って擦り付けて自身の主張を投げ掛けてくる。咥えて精の匂いに興奮したんだろう、少し勃っていた。

「…自業自得だろ、僕は何もやってない!」
「……う」
「自慰でもすればいいでしょうが。じゃあね、お休み!」
「あっ……う……」

ぐずる声が聞こえたが、放っておけば止むだろうと背を向けて布団を被った。







暫くすると途切れ途切れな声が少しずつ耳に入って不審を覚えた僕は寝返りを打ち、そうっと目を開けて様子を覗き見した。

「風間、風間……やだ、これきつい、やだよ……うっ、風間ぁ……」
「…………」
「う、後ろ届かな……ぁっ、ひ、う、うっ、かざまっ……」
「…………」
「かざ」
「あーもー五月蝿いな!」

かざまかざま五月蝿いったらありゃしない。
その前に言ってやらないと気が済まないことが一つ。

「トイレでするのが常識だろ!」
「立てない……」
「甘ったれるなっっ」

僕の言葉を気にかけずに持て余す性欲を解放したい度合いが大きかったのか、必死に甘えてくる。ねだってくる。

「ね、ね…い、挿れて…中…、いっぱい欲しい」
「何が欲しいの?」
「……ぅ、……せ」

ちゃんと言わないと何もくれないと、今までの経験から知った綾小路は顔を真っ赤にさせて小声に変わる。こういう時の綾小路は純情すぎて時たまに混乱する。剥き出しになった下半身をそっと開いて、今まで弄っていた後孔を粘液のついた指で拡げた。

「せー……せーぇき……」
「よく言えましたっていうか、そっちのが恥ずかしいの君?散々さっきまで喘いでたくせに……」

片手で顔を隠しているのをいいことに、足を更に開かせると声を詰まらせた。先程の自慰で解れている中へ、指の腹で擦るとか細い喘ぎが漏れる。

「あ、あ、っ…う…ん、んんんっ」
「……欲しかった?」
「うん、すごく……匂いと関係なしにずっと」
「あ……そう」

物凄く満足そうな顔して擦り寄るんじゃないよ、阿呆…。
抱きしめてくる綾小路に、それなりのお返しをやることに決めた。上に乗るようにと腕を引き寄せると、動揺が少し表れる。

「たくさん欲しいんでしょ」
「ぁ、そうだけど…」
「じゃあ最後まで全部君がやりなよ。煽ったのそっちだし」

「えっ―――」




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