02/あなたが遺した記憶の香り



「な、何……!?」
「そういえば、初めてだったけ?」

まぁいいか、なんて勝手に自己完結して軽く触れたかと思うとそのまま口腔に舌を捻じ込ませてくるのがいやというほど分かった。初めてだと知っているなら手順をもっと優しく踏まえて欲し……違う!何を考えているんだ俺は。先ず止めることが先決だろう。

「ぅぐ、かざ、まっ!」
「隙あり」

口を開いた瞬間を狙って、ぬるりと唾液を含んだ舌が入り込んだ。異物感にぞっと寒気するどころか匂いのせいで違った感覚が湧く。キスなんてしたことない。いや、無意識に両親としたかもしれない、そんな曖昧さしかない経験を凌駕する風間に不安が膨れ上がる。距離を取ろうと肩を押しやると更に舌を奥まで押し進め、拒否を表した。

「ん、ん゛ッ…んー!ンン!」

綺麗に並んだ歯列をなぞって、逃げ惑う俺の舌を絡め取る。他人の舌が自分のと重なり合うなんて気持ち悪いだけだ。気持ち悪い。気持ちよくなんてないんだ。ない。ない。

「あやのこーじー」
「んぇ、ぁ…」
「んー、もっと欲しかった?」

何を言ってるんだ。そもそも男同士で何故こういう展開に発展しているんだろうか?きちんと回り切れてない頭で横に振ると勝手に風間の手が俺のワイシャツに伸びてきた。ひやっとした外気に思わず身体を硬直させると大丈夫大丈夫、と暢気な慰めが耳に入る。

「ぜ、全然大丈夫じゃなさそうに見えるんだけど……何で脱がすんだ?」
「欲を抑えるっていったら、これかなあって」
「え、え」
「綾小路、自慰してる?」

真顔でとんでもないことを言う風間に対し、一気に顔を赤くした。今まで話題にしたことがないだけに何の反応をすればいいか思案する。

「せーえきの匂いも結構クる?満足してないから抑えられていないと思ったんだけど違う?それか、初めて良い匂い嗅いだから敏感になってるの?」
「まっ、待て!いっぺんに質問するな!!」

恥ずかしい言葉を並べられると返答に詰まる。

「面倒臭いからそういうことにしちゃうよ。ホラ、黙って匂い嗅ぎながら感じてて」
「感じるって何を…んゃっ!」

いつの間にかボタンを全部外されて、がら空きになった胸元に大きな手が這いずり回る。男でも他人に触れられると感じるのは当たり前だ。離してもらうように両腕を掴めばいい、ぐりぐりと乳首を弄繰り回す指を撥ね除ければいい。ただ、それだけなのに。

「綾小路ー両腕掴んだまま何してるのーもっと揉んで欲しいの?」
「ちがっ、やめ、うアぁ!」
「良さそうだね、もっとしたげる」

ほら、と五指で胸を揉みつつ赤く熟れた乳首を人差し指と中指で挟んで刺激を送る。嫌な筈なのに力が出ず、風間のいいようにさせてしまう。じくじくと身体の中で熱が帯びる。

「あ、あ、ちょ……」
「ああ、悪い」

一箇所じゃ可哀想だ。分からないことを呟いて片手だけ服の中から抜いた。正直言って初めて得る感覚に蕩けていてバックルに手掛け、一番熱が集まっている中心を握り出したのに気付くまで数秒費やした。流石に驚いた。

「なっ、っ、何、触っやっ」
「こっちも十分良さそうだ」
「―――っ」

ぬるん、半勃ちの亀頭から滲み出る先走りを指の腹で拡げられて何とも言えない快感が背中から腰にかけてぞわぞわっと走って地面についていない足がピンと伸びる。自分で身体を支えるのに限界を覚え、風間の肩に額を乗せると胸の愛撫を止めてくれた。

「はぁ……」

ほっと安堵の溜息をついたのも束の間。空いた手は背中を伝って、ズボンの隙間へ潜り込んで入り口の皺を伸ばしながら撫でるのが分かる。

「やっ、やだっ!」
「男同士でやるには此処しかないだろ?」
「そ、そ、そうかもだけど、……やったことは……」

もう片方で濡れた指を一本ゆっくり入れられて息が詰まった。何もかも初めて経験するものだけあって不安が勝る。否定しようにも、中を無理やり抉じ開けられる痛みで息継ぎすることだけしか出来ずにいた。

「経験あったら怖いよ、誰としたんだって……でもまぁ、知ってるなら後は分かるね」
「ス、ストップ!!ストップ!!ちょっと待って……」
「なぁに?はい、もう一本」
「ひァ!む、むちゃくちゃだ……ぁ、は……な、何でこんなことになって?なってるんだ?」

二本挿入されて、痛みが強くなると身構えた割には変な感覚まで纏わり付いた。思考が崩れないよう理性を持ち堪えつつ、疑問をぶつける。

「ん?ああ、性を欲してるのか、匂いを欲してるのか分かんないから応急処置。どっちも得られていいことでしょ?」
「おっ……おとこ……っ!おれ男……!」
「君なら大丈夫かなって思ったら、意外といけたっていうか。アハハ」

あっけらかんとした態度に泣きそうになった。

「そっそんな軽……ッ、しょ、初体験!ものすごい初体験っ、ひ」
「じゃあ、ついでにもっといいものあげよう」

涙目で訴えると更に清々しい笑みを浮かべて、すっかり痛みが取れた中から指を抜いた。その時に排泄感が物凄く、声を詰まらせていたら硬くて熱いものが入り口を擦った。

「え、や、やだっ!風間!かざぁッ―――――ア!」

首を精一杯横に振ったのに、無視された。というか貫かれた。
本気で初体験なのに、だ。




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