03/あなたが遺した記憶の香り



「っ、力、抜け…っ」
「い、ぁっ、いやだいやだっあァ、あっ」

案の定、受け入れるように作られていない中へと無理やり抉じ開けられる苦痛で一際大きな声を出した。本能で痛みから逃れるべく挿入を塞き止めると眉を顰めた。目から溢れる涙越しに初めて見た表情に少々惹かれた。こんな顔もするんだ。

「あやのこーじ」

そっと耳元で声を小さくするように、あとキツイ。と言われ、今の状況を綺麗に把握した。初体験どころか場所が酷い。普段いつも勉学で利用しているクラスで俺達は何をしてるんだっ……あああああばかばかあほあほなきたいしにたい、いやちょっと待てこんな所で死んだら最悪だ!!俺のばかあほ!何考えてんだ!

「う――っ、うっ、うっ、っ」

痛すぎて、支えが欲しかった俺は風間の首に両手を回す。どうやっても漏れ出す声を押し殺すために襟を噛んでやり過ごそうと決意した。その覚悟を感じ取ったのか、背中を軽く叩いて旋毛に口を付けて囁く。

「そんなに気張らなくても、ほら。もう痛くないだろ?」
「っ!?」
「ね?」

暫く動きを止めていたお陰なんだろうか。中を無理やり圧迫していた質量がぴったりと収まっていた。ゆっくり腰に手を添え、上下に動かされる度に熱の篭った性器が内壁をぐりぐり抉る。その衝撃が凄まじくて意識を持っていかれそうになる。

「な、何?なに、なんだ?これ?なにまってまっ、ア―――あっ、待って!ぁあ、あっ」
「待てるの?」
「ひ、あ、あっ、やだ、あっァ、あついっ…あつい……やだぁ……あァやだ、きもち、きもちいいよ……う、ううやだ……」

小刻みな動きから様子を見ていた風間は腸液で絡んだ性器を入り口までぎりぎり抜き、一気に奥まで突き入れた。重々しい快感にびりびり脳髄にまで駆け上がった気がした。

「気持ちいいなら、イイって言うんだよ」
「イ……いい……?」
「そう、いいんでしょ?」
「うん……どうしよう……は、風間が動く度に気持ちよすぎて……やだ、こわい」

喋るのも、考えるのも、動くのも、息するのも本当に苦しい。放棄して風間のやることに全部溺れて浸っていたいなんて訳の分からない欲望が少しずつ、だけど確実に、心の中で広がっていく。

「しまった、そうだった……君、童貞だっけ?」
「………………」

真っ赤な顔で涙を浮かべつつ静かに頷くと難しい顔をして、あちゃあと自分の顔を手の平いっぱい軽く叩いた。何か問題でもあったんだろうか、俺には分からない。

「あー…まあ、何だ。抑えられた?」
「あ、うん……」
「じゃあ、もう動いていい?」
「う……やだ……」

匂いが欲しいという禁断症状らしきものは消え失せていたけれども、またあの得体の知れない快感を味わうと思うと怖くて風間に縋りつくと、苦笑が耳元で聞こえる。

「動かなかったら、このままになっちゃうんだけど」
「それもやだ……」

少し密着度を緩めて顔を上げると、空いてる片手で下睫毛に溜まった涙を拭われた。俺が泣いてる時だけは何でこんなに優しく接するんだろう。いつもそれくらい優しければいいのに。ばか。ああ、でも時たまに優しい方が凄く新鮮な気がす……何を言ってるんだ俺は。

「ワガママだなあ」
「だ、だって動いたら……ゾクゾクってくる……おまけに大きいし、こすれるし、あついし、やだ……」
「………………」

変な考えを捨てて、今の状況を風間に言うと何故か黙り込んでしまう。不思議に思って声掛けようとすると中に収まっていた質量が少し大きくなった。直接だと凄く形が分かりやすいんだな、なんて下らないことは置いて。

「ぁ、か、かざま?なに、何で大きくし」
「くそー…失敗した」
「えっ!?あ!ア、あああ、やだ、風間っ、ァ、あ―――ッ!」
「文句は後で聞く!」

早口で言い放ち、俺の腰を思い切り掴んで引き寄せた。後はもう知りたくない、考えるどころじゃなかった。



何もかも初めてすぎた俺には、自身の影響を及ぼす記憶として焼きついた。
本気で。真面目に。凄く。果てしなく。永遠に。



*



「―――すきだよ」
 
う、うわあ、うわあ……面と向かって言われると。今の顔を見せたくなくて、両手で覆い隠すと熱が伝わる。茹蛸みたいになっているんじゃないだろうか、あつい。
 
「は、はずかしい……」
「君が言わせたんでしょうが!何でそっちが被害被ったことになってるわけ!?」
 
俺に釣られて、風間まで真っ赤になってる。かわ……いやいや、違うだろ俺。怒る風間を手と手の間から覗いた。そういえば怒った顔も見たことなかったなあと冷静に思った。

「全く」
「ごめん……だって、無理やりかと思うくらい、と、止めてくれなかったし……酷かったし……俺のこと嫌いなんだと……」
「五月蝿い……誰のせいだと思ってるんだ。本当に初めてなの?君さぁ」
「な!?バカか!!!!!!??」

暴言を吐く風間から離れたくても腰が痛すぎて立てない。代わりに、力一杯耳元で大声を上げると耳に手を当ててたじろいだ。

「匂いが駄目だっていうのに、あんなこと出来るか!」
「いたた…あんなことって何?」
「お、応急処置!」
「わかんない」
「……せっ……せ……」
 
こんなに言うのが恥ずかしいのは絶対にやつきながら見てるせいだ。わざとだろ。何だその面白い発見したとかいうような顔。ばかしねくそはずかしい。
 
「せ………!」
「せ?」

「…………………………もうやだぁ」

「げっ!あー、あほ。泣くな、こら、泣くなって言ってるだろ!泣き止め!ほら!」







(―――あーあ、随分と恥ずかしいことを思い出しすぎた)

誰も居なくなった教室と風間の匂いだけが残ると本当に、あの時の出来事を鮮明に映像化してしまうのでいけない。お陰で、

「何?」
「あ、う、あの、その」





「せ―――」













匂いより性欲衝動が起こってしまう癖がついたじゃないか、ばかざま。













2010/08/22  折角だから風間を求めるきっかけを考えてみたww