01/従順な本能



(変わりすぎ)

H組から誰もが居なくなった途端、隙間を狙って自分の腕を絡ませてきた。
それだけでは飽き足らず五指まで絡めて体温が直に伝わる。まだ級友がいた時は冷静に対応していたのに、今では凄く不器用に対応しているのが大変可笑しかった。

(本当に普段と違う顔を見せるなあ)

「何?」
「あ、う、あの、その」

先程までは能弁に話していたくせにこの変わり様。笑いを押し殺して、引っ付いてくる理由を問い質すと視線をあちこちへと彷徨わせた。



「………………せ……せっくす…………」



「……したいの?」
「……うん」

マスク越しでも分かるほど顔を赤くして俯く。恥ずかしいなら言わなきゃいいのに、と言いかけた言葉を飲み込んで前にも似たやり取りをしていたことを今ようやく思い出す。

「へーちゃんと言えるようになったんだ、えらいねえ?」
「お、お前が言わなきゃ伝わらないって、前…!」

悪戯で遊んだ言葉が、綺麗に取り上げられるとは思いもしなかった。勿論、予想もしていなかった。面白い展開が見れて最高に気分がよかった僕は、本当に本っ当に気紛れな案を投げかけてみた。

「ちゃんと言えたご褒美に僕の家、来る?」
「えっ!?あ………い、行く」

かああっと、更に顔を赤くする。まるで茹蛸だ。

「何で恥ずかしがるの?ちょっと。こっちが恥ずかしくなるでしょうが」
「だ、だって……だって……家に行くとかそういうの、初めてで」
「ええ?あ、そうか。匂い」

些細な匂いでも感じ取る特異体質は本当にいつだって大変だねェ、同情する気もなく抜けた顔を向けた。勿論わざとでやったつもりでいたのだが、張本人はさして気にした風もなく頷くだけだった。悪魔退治の時は命が掛かっていたから気にする余裕がなかったと付け加えて。

「ふ〜ん、じゃあ君の初めては全部僕が奪っちゃってるんだ〜」
「………………」

面白くないので更に突っかかってみると、次は頷きも何も返って来なかった。肯定もなければ否定もないということは黙認という形になる。流石にこれは僕も黙っていられなかった。

「あ、阿呆!そこで黙るな!もう行くから鞄取って来い!!!!」

恥ずかしさを紛らわせる為に声を張り上げたのに、真っ赤な顔をして小さく頷くもんだから余計むず痒い気持ちで一杯になった僕は鞄を持ってきた綾小路の腕を掴んでさっさと教室から退散した。



*



無駄なやり取りを好まない僕は家に着くと直ぐに部屋へ通してやった。ドアを開けて先に入るよう促すと礼を一つ向けて領地へと入り込む。物珍しく辺りを見回す綾小路に触るなよと注意を施した。

「ここ……」
「うん?ほら、鞄。よこしなさいよ」

事を進めるべく、肩にかけられてあった鞄を剥ぎ取って腕を引き寄せようとした時。

「風間の匂いでいっぱいだ」

マスクをずらして変な感想を述べる綾小路の口を塞いだ。むしろ、塞いでおかなければ僕の理性が壊れそうだったからだ。酷すぎる。以前より、殺し文句が多い気がするぞ。そのまま口を合わせていると、吃驚して硬直していた綾小路がようやく抵抗をみせた。僕から離れようとぐいぐい身体を押す。

「っ、なっ…な、も、もう?」
「したかったんじゃないの?」

口の感触を拭いながら、そんなことを聞く綾小路に少し不満を覚えた僕は眉を顰める。けれど、此処でやめるつもりはなかったので片手でマスクを器用に取っていった。

「そ、そうだけど……」

急すぎないか、心の準備が、お風呂とか、匂いとか、小声で何か呟く言葉を無視してベッドに押し倒してワイシャツの釦を外しにかかる。

「何?教室でして欲しかったの?」
「嫌だ!」
「あ、即答。前した時そんなに嫌がってなかったくせに〜」

記憶の中から思い返されるのは、夕焼けで綺麗に染まった教室の中で乱れる二つの物体。生き物。人間。最初は抵抗していたようにも思えるが、結局は流されるままに自分から身を乗り出して行為に耽っていた光景がありありと実体化してくる。

「不可抗力だ…あれは、不可抗力っ……本当は」
「嫌じゃなくて、気持ちよかっただったね。ごめんごめん」

「ちがうっ!」

「気持ちよくなかった?」
「あ、いや、気持ちよかったけど……ってそうじゃなくて!」

どんなことにもいちいち反応するのが面白いから、からかって遊んでいることを知らないんだろうか。そろそろ気付いてもいいと思うのに、そんな動きが見られないので僕はとことん遊んでやろうと心に誓っている。

「か、風間が煽るから」
「何?僕のせいだって言うの?」
「うっ…そうだろ…き、気持ちよすぎることするから……」
「ならいいじゃないか」
「よくないっ……本当なら、もっとゆっくり感じていたかったのに……それを」

こいつ何処のかわいい女の子だ?男だろ?男だこいつ、いつからそんな思考に陥ったんだ、おいおい。落ち着け落ち着くんだそうだ落ち着くべきだ……………落ち着け、僕が。ほら、ふにっとした柔らかい膨らみ二つないだろ、ないな。でも柔らかいな、やわらかい。

「や、や、風間、胸ばっかり触らないでっ…」
「はっ」

ワイシャツの釦を全部解いた後、肌蹴た所に両手を滑り込ませて胸を弄繰り回していたことに気付く。何回もしておきながら今更、性別の確認してどうするんだ。馬鹿か、僕は。しっかし肉付きがいいな、こいつ……すっかり赤みを帯びた乳首を摘みながら擦ると艶かしい声を上げた。

「ほんと君、快楽には忠実だねえ」
「あっ、待っ!―――っ!」

身を乗り上げると二人分の重さに倣ってマットレスが更に沈む。綾小路の制止を振り切って膨らんだ乳首を吸うと身体を跳ねさせた。相変わらずいい反応を見せるなあと感心しながら徐々に下へと移動した。

「やだっ!咥えるな!」
「……何で?」

臍辺りまで舐め、そろそろとバックルに手掛けた所で頭を掴まれた。顔を上げると生理的に出たであろう涙を目に溜めて否定する。

「俺、はっ……風間と一緒に気持ちよくなりたいんだよ!だから、そんな、一人だけでなんて、嫌だっ……!うっ、うー…うっ、うっ」
「………………………君、ねぇ」

(……なんだこのかわいい生き物)

「じゃあ僕の上に乗って、後ろ向きで」

そう言って綾小路の横を通って、仰向けに寝た。訳が分からないといった顔を見せる綾小路を手招きして後ろ向きで腰辺りに座らせると、どんっと背中を押した。

「え、わあっ!な、なに?」
「咥えて、僕の」
「あ…」

流石に体位で気付いた綾小路は小さな声で反応を表した。不安げに此方を一度見ていたが、決意したように視線を戻して、ジ、ジジジと口でジッパーを外す音が聞こえた。何だかいやに妙にくすぐったい。

「風間、ちょっとだけ勃ってる。よかった?」
「まあ、そりゃあ、」
「……うれしい」

五指全体で固さを確認しつつ、軽く亀頭に口付けた後、思い切り口一杯に咥え込む。口腔の温度と唾液の絡み合いで思わず声を出しそうになるのを抑えた。綾小路が口でのご奉仕を頑張る代わり、此方は此方で快感を送るべくズボンを下着ごと下ろす。

「っ…」
「嫌ならやめるよ」

膝まで下ろしたのを止められたので、笑顔を向けて悪戯っぽく言ってやるとズボンを上げようとした手は直ぐに離れ、代わりに陰茎に添え出した。羞恥より快楽、ねえ。面白げに笑いながら唾液を指に含ませて後孔を解す作業に取り掛かった。

「はは、ほんと色々開花させたのがいけなかったかなあ」
「んっ、ん、はー…」
「今度は何だよ」
「どうしよう」

外気に触れ、唾液が流れる感触で愛撫を一旦中断したのが分かったので、こちらも一旦後孔から指を引き抜いて中断してやった。送り込んだ快楽を一気に抜かれる感じを受けたのか、びくびくと身体を震わせた。

「風間のにおいが、いっぱいすぎて……くらくらする」

足と足の間から覗かせた顔は物凄く恍惚に塗れていた。加えて、とんでもない言葉を吐くのは卑怯としか言いようがない。

「……あ、そう」
「んっ、大きくなった」



(もう、黙れ)




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