つないであげるからあんしんしてね











※「ずっとずっと繋ぎとめる言葉ばかり考えてる」の続編です。





















来い、と。


薄い光で照らされた液晶画面に映った文字を見て笑う。
少し知り合った女の子達に軽く会釈し、ひらひらと片手を振りながら場を離れる。

(さて)

返信もせず、携帯を折り畳んで無造作にズボンのポケットへ入れて鼻歌を口ずさむ。

(ご機嫌を伺いに行きますか、っと)



*



「勝手に、離れるんじゃない。―――ばかざま」

日光で照らされた瞳の中に映った表情を見て笑う。
誰もいない裏庭で目一杯零す涙を抑えようともせずに睨みつける姿は今まで見たものの中で、より一層際立っていた。

「―――――」

暫く何も発言せずにいると咲き誇った桜の花びらが風に舞い、肌を優しく撫でる。
俯いて嗚咽を漏らす彼の頭を卒業証書の筒でこんこん軽く叩くと、それを合図として読み取ったのか僕の胸へと飛び込んだ。唐突な展開に身構えていなかった僕はそのまま重力の流れで尻餅をついてしまった。背中に爪を立て、制服が破れるんじゃないかと思うくらい引っ張る彼の耳元で小さく囁く。

「僕にどうして欲しいわけ?」

表情を窺うことは叶わなかったが、ぴくりと反応を示した。
それだけで十分だ。

「……俺が」
「うん」
「来い、って言ったら―――」
「うん」



「すぐに飛んで来い」



*



(…随分と懐かしいものを思い出したもんだ)

ついさっき話題にしたせいだろうか。夢に出てくるほど僕にとって印象深いものだったのか、と他人事のように感じた。そう感じるのは何も今に始まったことじゃあない、高校の時からずっと―――だ。

(はっきり言えば綾小路と会った時からだな)

隣で気持ち良さそうに寝息を立てて僕にくっつく綾小路の前髪を掻き揚げる。
こんな光景は、綾小路が一人暮らしを始めた時から日常茶飯事だった。

「綾小路」
「ん」

少し呟いた名前に無意識で反応する様があまりにも可笑しくて、笑いそうになった。
せっかく反応してくれたので、ご褒美の代わりに抱き寄せてやる。

「一生、言うこともないだろうから今の内に告白しておくよ」

僕が勝手に東大を選んだのは気紛れだって言ったけれど、ああすれば君は焦るだろうと思ったからさ。幾らなんでも、綾小路でもハイレベルな大学を受けようとは考えないだろうし、諦めるしかないだろ?でも、初めて得た『いい匂い』を君が手放すわけがないと踏んでいたからね。

……予想どおり、必死で繋ぎ止めようとする君を見て。



「ああ―――ようやく掛かったな、って思った」















月光で照らされた瞳の中に映った寝顔を見て笑う。










10/01/05  29風綾を書く前にお互い繋ぎ止め合ってる関係を醸し出したかったんだ。