01/つよく求めすぎた代償



(顔に出しすぎ)

思わず頭の中で呟いた。口に出せば恐らく、態度を正すだろうから言わないでおく。
それほど今の彼……綾小路の言動が面白い。僕を引き止めたいのか裾を掴んで必死にあれこれ興味を引くようなことを言う。全て無視しながら歩くと少し泣きそうな顔をする。

(本当に阿呆だね)

からかうのは此処までにしよう。歩みを止め、急に振り向く僕に驚いた綾小路の腰を引き寄せた。最近は匂いのせいか、引っ付くと直ぐに大人しくなるので喧嘩した時には大変もってこいだ。

「君さあ、なんで言葉に出せないの?そんなに頑張ったって言いたいことをはっきり相手に言わなきゃ伝わらないと思うけど」
「つっ、伝わってるじゃないか!」
「言わない限り、僕は相手しません。じゃあねえ」
「え…」

そ、そんな、なんて動揺し出す。本当に僕の前では態度が一変するので、いつ見ても飽きない。あえて突き放すと慌てて裾から腕へと掴む対象が変わった。

「何?」
「っ……う……、その、」
「分からない」
「ぅ…し、し、」
「し?」

本当に口に出すのも嫌なんだな。
まあ、それだけ嫌なものを生真面目の彼から聞けるのが楽しい。

「したい…」
「何を?」
「!?」

だから、こうやって更に聞き出したくなるんだよねえ。意地が悪いって言われるかなあ、でもねえ、涙を浮かべる顔を見たらどうしようもなく苛めたくなるじゃあないの。

「何、黙り込んで。おしまい?なら行くよ」
「せっ……」

セックスと小さな声で言った頃には真っ赤な顔をしながらぼろぼろ泣いていた。
流石に苛めすぎたなと思ったので、舌で涙を舐め取って優しく抱き上げた。



*



「待てって!!」
「もう、何だよ。君の望みどおりにしてやってるのに何で叩かれなきゃいけないんだ」

これじゃあ強姦してるみたいじゃないか、等と言いながらも僕は淡々と綾小路の脚を広げる。そのままズボンのベルトを外そうとした所で手を押さえつけられた。

「こんな所でする馬鹿がいるか!」
「何だ。家に帰ってゆっくりしたかったの?ごめんねえ、早くしたそうにしてたからさあ」
「なっ」

かっと顔を赤くし、夕焼けの色と相まって綺麗に映えた。
放課後に無人の教室でするのは流石に欲情があっても理性の方が勝るようだ。
つまらない。此処は一つ、その気にさせてやろう。

「お、おいっ!」
「しー。誰もいないとはいえ、そんな大きな声出せば誰か来るかもしれないぞ」
「だったら余計やめ、っ!?」

廊下に繋がる窓際の壁にもたれさせて座らせるなり、僕は無理矢理ズボンを下ろして性器を咥えた。身体をしならせ、出かかった声をぎりぎりのところで防ぐ。外部からの刺激に相変わらず弱いようで、直ぐに半勃ちになる。人との触れ合いが極端に少ないと身体の仕組みも極端に変わるんだろうか。

「ひ…っ、か、ちょっ…」
「てふこうしひゃいの」
「ぃ…」

頭を押さえつけた力も徐々になくなって、口を塞ぐので精一杯になる。
は、は、と途切れる呼吸が今の心境を表しているようで面白い。身体がとても素直な為、何処をどういう風にすればいいのか聞かずとも自然に分かるので楽だ。

「っ、も、もう」

僕にセックスをねだるくらいだ、溜まってたんだろう。
言うけれど、僕ぁちゃんとそれなりに相手はしてやってるぞ。
逆に僕もしたくなったら綾小路を引っ張ってやるし、これが僕らのスタイルだ。

「ぁ、や、いく、だめだ…かざまっ…っ」

ただ、時たまに綾小路の方の性欲の度合いがだな……まあ、ひどい。真面目にコミュニケーションを取っていればこんなことにはならなかっただろうか。そう思うと、性について色々開花させた僕が悪いんだろうかという気になってくるから厄介だ。

「ぁ、あぁ…っ!」

そうこう考えてるうちに僕の口腔で爆ぜ、一気に濃密な匂いが広がる。このまま吐き出してしまうと処理が面倒臭くなるので飲み込んだ。余韻に浸っていた綾小路が目を見開いてこちらを見た。

「何?飲みたかった?」
「ばっ……おまえ……」

言いたいことを口にするより、先ずこの状況を気にするべきだろう。することを終え、ズボンを上げさせて釦を留めた。

「ほら、終わり。帰るよ」
「えっ」

立ち上がらせようと綾小路の腕を掴むと、拒まれた。

「ま、待てよ、俺だけ…?」
「んー?」
「お、俺だけ気持ちよくなるなんて、そんな、そんなの…不公平だ」
「…………」

いや、あ、ちょっとこら。……反論しようとした矢先、膝をついて勝手にジッパーを下げちゃったよ。実に阿呆だな君は。このまま家に帰ってゆっくりしようと思ってたのに、自ら危険に飛び込んでどうする。

「次は、俺の番」
「……うん、まあ好きにして」

綾小路が決めたなら梃子を使ったって動かない。こうなれば腹を括る他ないだろう。近くにあった椅子に座ると、本格的に奉仕するべく身を乗り出した。



(これは、僕の責任じゃないからな)




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