序章

「う〜ん、春だねえ」

春。ぽかぽかの陽気を受けながら、僕は一人優雅な気分に浸っていた。
僕の名前は風間望。鳴神学園に通う三年生だ。

品行方正、容姿端麗、豪華絢爛、焼肉定食……
すべてにおいて完璧な僕は、この鳴神学園のスターとして君臨している。

しかし、良い男に秘密はつきもの。
僕にはとっておきの秘密があるのさ。それは……。

「おや、この音は……」

胸元にしまっているワッペンがにわかに反応しだすと、そこから懐かしい声が聞こえてきた。

「DTRGFFGBGHGHGHN!!」
「やあ、長官ではないですか。どうしたんですか?」
「NGHOOKOAKEAJRIKSA♪」
「ふむふむ。長官、これからは日本語で話しませんか。前にスンバラリア語での会話を一般市民に聞かれてしまい、記憶を消すのが大変だったものですから」
「…ふむ、わかった。少しは成長したようだな、マザーカ・レテラ二カセンニセヒ・ムーゾンノ」
「お久しぶりです、ドーモデンガ・イカランニテタチテムタ・バンギーゴンゲレ長官」

そう、この華麗で豪華な僕の秘密。それは、宇宙人だということさ。

「それで長官。今回は一体何のご用ですか?」
「マザーカ・レテラ二カセンニセヒ・ムーゾンノ。我々が地球侵略としてお前を初め、幾人かを工作員として地球に送り込んでいるのは知っているな?」
「はい、承知しております」
「我々も、地球侵略のために工作員を何人か送り込んできたが、未だに地球侵略の有効な手を打てていない」
「はい……」

「そこで我々は考えた。ここは工作員同士の連携が必要ではないかと。今まで、工作員は単独の活動が主だったが、これからは同じ工作員同士が、助け合い、協力していくことが必要だ」
「素晴らしいお考えだと思います、長官」
「それで、工作員として送り込まれている人物のリストを再度見直してみたところ……どうやら、お前の他にも、工作員が鳴神学園にいるらしい」
「なんと!同士がこの鳴神学園に?」
「ああ。しかし、該当者のリストを紛失してしまってな。唯一わかっているのはこの鳴神学園にいるということだけで……誰がスンバラリア星人であるかは、我々でもわからないのだ」

「うーむ……」
「さらに厄介なことに、どうやらその工作員は十年以上にも及ぶ地球での工作活動の影響か、当時の記憶をなくしており……自分が誇り高きスンバラリア星人であることを忘れてしまっているらしい」
「なんと!嘆かわしいことですね、長官。では、僕の今回の任務は……」
「マザーカ・レテラ二カセンニセヒ・ムーゾンノ、お前に任務を与える。一ヶ月以内に仲間を見つけ、失った記憶を修復するのだ」
「一ヶ月?随分急ですね。事は慎重を要します。出来ればもう少し期間を頂きたいのですが……」

「実はな、マザーカ・レテラ二カセンニセヒ・ムーゾンノ。添付してあった資料でわかったのだが……地球時間でいう約一ヵ月後に、潜伏した同士の体内に埋め込まれた原子爆弾が爆発するというのだ。もしそれが爆発すれば、地球程度の惑星など跡形もなく吹っ飛んでしまう」
「なんと!でも、一体なぜ同士の体内に爆弾が……?」
「うむ。最高の科学技術を誇るスンバラリア星人をもってしてもその重要な目的を記した書類の紛失という事態を避けられなかった。これは宇宙法則の発動と同じく、この宇宙に生きるものとしては、避けられない運命だったのだ」
「なるほど、それは仕方ありませんね」
「そういうわけで、とにかく一ヶ月以内に同士を見つけなければ、地球は吹き飛んでしまう。そうなれば、我々も地球侵略が出来なくなってしまう。なんせ地球がないからな」

「そうですね」
「では、健闘を祈る」

さて大変だ。
一ヶ月以内に、この鳴神学園にいる同士を見つけなければ地球は宇宙の塵となってしまうわけか。一体、この学園の誰が我が同士なんだ?学園生活を送りつつ、誰が我が同士か見極めねば……まあ、この僕ならそんなの朝飯前だろうけどね。

待っていろよ、まだ見ぬ同士よ!



>>>4月10日