4月10日 今日も退屈な授業が終わった。同士を探すのも重要だが、スンバラリア星の工作員として、地球の文化を学ぶ事も重要だ。 地球の歴史を学ぶために図書室にやってきたよ。 さて、地球の歴史を学ぶにはどんな本を読めばいいのか……。おっと、これなんかいいかな。なになに……原始の海の表面の、混沌とした暗闇の中、神様はまず光を作り、昼と夜をつくりました……。何だ、この神様っていうのは一体何者なんだ? この神様というのは地球の歴史を学ぶ上で重要な事柄のようだぞ。ふむふむ。 ふう、今日もたくさんの知識が身についてしまったよ。どれくらい沢山かといったら、少しでも動いたら、頭から零れ落ちてしまいそうなほどさ。僕と高尚な書物。まるでご飯と海苔の佃煮のように似合いの組み合わせだと思わないかい? ……おっといけない、こんな時に通信だ。 僕としたことが、通信機を胸ポケットに放り込んだまま、うっかりマナーモードにするのを忘れていたよ。周りの生徒の視線が集まりだしたので、僕は仕方なく図書室を出て行った。 「はい、こちらマザーカ……」 「おお、マザーカか。だいぶ地球の言葉も流暢に話すようになったな。今は学校か?すまんな、急を要する話だったのでな。……実は例の爆弾の件なのだが……」 僕は廊下の隅に隠れ、目立たないように小声で通信に応じた。 「なんだい、原子爆弾って?」 「どわっ!」 僕は慌てて振り向いた。まずい!マザーシップとの通信を、地球人に見られてしまった! 「……なんだ、綾小路じゃないか」 そこに立っていたのは、同じクラスの綾小路行人だった。今日もトレードマークのマスクをしている。というのも、こいつは人一倍嗅覚が敏感で、マスクをしていないと、周囲の沢山の臭いで気分が悪くなってしまうんだそうだ。まるで犬みたいな奴だね。 「お前、今誰と話してたんだ?」 「誰って?……はっはっは、君は何を言っているんだい?僕は独り言を言っていたのさ。これはただのバッジだよ」 ここはひたすらごまかすしかない。 「嘘だ、貸してみろ」 「あっ、何をする!」 綾小路は僕の手から無理やりバッジをもぎ取ると、通信ボタンを押してしまった。 「……なんだマザーカ、まだ話があるのか?こちらとしては、地球征服プランに進展でもあると嬉しいんだがな」 「ちょ、長官っ、ダメです!」 「んっ?どうした。次回のスンバラリア建国記念の日に間に合うように……」 僕は、綾小路の手から通信機を奪い返して、慌ててスイッチを切った。 「…………あはは、あははは……。いや〜、最近のおもちゃはよく出来ているねえ……」 綾小路は、ジト目でこちらを見ている。……やばい、ごまかし切れないか。 「今の科学技術で、こんな小型の機械からクリアな音声が音声が出るわけないだろう。これ、本物だな」 「ん〜……なんのことかなあ?」 「とぼけるなよ。これ、おもちゃじゃなくて本物の通信機だろ。何処と話してたんだ?まさかUFOなんて言うんじゃないだろうな」 「あ〜、それはだねえ……」 綾小路は、壁に手をつくとグッと身を乗り出して僕をにらみつけた。 「本当のことを言わないんだったら、お前の秘密をみんなにばらす」 「なっ!なにを……」 「うるさい。本当のことを話すか、秘密がばれて今後校内で行動しにくくなるか……。どっちがいい?」 なんて奴だ。地球人というのは、まったくずる賢いね。 「さあ!」 「……わかったよ……」 僕は観念して、しぶしぶ自分がスンバラリア星人であることや、地球征服のために赴任していることを話した。本当に信じているのかどうかはわからないが、綾小路は時限式の原子爆弾のことに話題が移ると、特に興味を示していたようだ。 「ふーん……」 「別に今の話を信じてくれとは言わない。でも、僕は真実を話したんだからね」 「いや、俺は信じるよ。……ところで、その爆弾の破壊力というのは、どれぐらいなんだ?」 「この惑星ぐらいだったら、簡単に吹っ飛んでしまうらしいね」 「……それは本当か!?」 なんだかだんだん、刑事に尋問される犯人みたいな気分になってきたなあ。僕は何も悪いことをしちゃいないというのに。 「向こうがそう言ってるんだから、そうなんだろ」 「これは……、もしかすると使えるかもな……」 「うん?何のことだい?そういえば何か切迫した雰囲気じゃないか。何かから逃げているみたいな……」 「お……っ、お前が知らない顔するか!?元はといえば、お前のせいでこうなったんだろうが!!」 綾小路は、予告もなしにいきなりブチ切れた。 「おいおい、そんな大きな声を出さないでくれたまえ。他の人に聞かれてしまうじゃないか……で、どうしたんだっけ?」 「俺が困っていることといったら、大川のことしかないだろうがっ!!お前が怪しげな魔術の道具なんて持ってくるから、こんな羽目になったんだろっ!!少しは自覚しろよ、このっ!!……はあっ、はあっ……」 綾小路は、胸の鬱憤をぶちまけるかのように、大声で一気にまくし立てた。 「はっはっは……。あ〜、そんなこともあったねえ」 「……ったく、お前という奴は……」 そうだった。綾小路は大川という死ぬほど臭い悪魔に付け狙われていて、ま、いろいろあって今はその悪魔と契約関係にあるんだ。詳しい経緯はVNV新改装版や小説版アパシー学怖1995を参照してくれたまえ。……さて、何の話だっけ? 「で、早い話がその同士とやらを見つけ出せばいいんだな?」 「ああ」 「よし、爆弾を見つけるのに手を貸そうじゃないか」 「それはありがたいね。でも、どうやって見つけるんだい?優秀なエージェントであるこの僕が、今までかかってまったく手がかりが掴めていないというのに」 「大川を使うのさ!」 「なんと!」 綾小路の提案は、予想もつかないものだった。 「大川だって悪魔の端くれだ。特殊な能力で、爆弾を抱えた同士とやらを探すことが出来るかもしれない」 「ふんふん」 「その代わり、爆弾を見つけたら僕の願いを聞いてくれないか」 「願い?」 「大川を……あいつを何とかしてくれ!あいつが四六時中付きまとうせいで、俺は一時たりとも心が休まることがないんだ!」 「う〜ん、でもどうやって……」 「お前たち、UFOとか持ってるんだろ!?それで大川を宇宙旅行に連れて行くだとか何とか言ってだな。隙を見てブラックホールにでも放り込んでしまえばいいじゃないか」 「君……残酷なことをさらっと言うねえ」 「残酷!?お前は俺がどれだけの苦労を味わっているか知らないから、そんなことが言えるんだよ。いいか、このままでは俺は一生あいつに付きまとわれ、死んだ後も未来永劫、あいつの側にいなきゃいけないんだ。そしてその責任は、お前にある!だからお前は、俺を助ける義務があるんだ!」 「……強引だねえ。わかったよ、手を組もう」 「ありがとう……恩に着るよ……ぐっ、まずい!じゃ、詳しい話はまた次回」 綾小路は僕の手を握ったかと思うと、慌てて走り去ってしまった。 (なんだろう、落ち着きがない奴だねえ) しかし僕は、その意味をすぐに知ることになった。 (……ぐはぁっ、臭い!!) 「ユッキ〜♪おーい、ユッキーってば〜、どこに行ったんだ〜い?」 「大川……」 「あっ、風間くんじゃないか。ねえ、ユッキー見なかった?」 「さあ、知らないね」 僕はポケットから出した純白のハンカチで鼻を覆いながら答えた。大川の奴は、走って汗をかいたからか一段と強烈な臭いを振りまいている。まるで歩くZKQYDET……おっと、地球風の発音で表記するなら、ドンベロボリンギだね。 そうか、綾小路は敏感な嗅覚で、この臭いをいち早く察知して逃げて行ったのか。 「もう、どこに行っちゃったのかな?あ、ユッキーは僕のものなんだからね、他の奴と話しているところなんて見たら、僕許さないんだからね!」 「ああ、わかってる、わかってるよ」 「ならいいんだ♪お〜い、ユッキーってば〜」 大川は去って行った。はあ〜、これで思いっきり息を吸い込める。 ……やれやれ、あんな強烈な臭いの元がついて回っているんだから、綾小路も可哀想だな。爆弾が早く見つかれば、本国での僕の評価も上がるだろうし、一つここは、あいつの話に乗ってやろうか。 >>>4月12日 |