奏でる温度











※人格崩壊していることを前提に笑。





















初夏に近いある午前、授業中に『それ』は起こった。

「―――!」
「先生?」

カリカリと小さな音を立てながら黒板に教科書の重要な部分を書いていた先生が途中でチョークを少し折った。何事かと思い、静かにノートに写していた生徒達は顔を上げて真っ黒い背中に向けて呼びかけてみたが、うんともすんとも言わず開け放たれた窓を凝視したまま固まっていた。

「先生…?あの続、」

一人が手を挙げて授業を促した同時に、カカッと途中の文章の下に大きく自習と書き残して音楽室から飛び出していく先生に少々ざわめきを起こした。



*



「風間!」
「げえっ」

風間と呼ばれた男は声のした方を恐る恐る見て半信半疑から確信に変わり、一気に逃げ出そうとする。

「逃げるんじゃないっ!」

咄嗟に繰り出した飛び蹴りが綺麗に決まった。地面にぶつかる音が物凄かったことは気にせず、もんどりを打つ風間を仰向けにして馬乗りする。走り回ったせいで乱れた心臓を落ち着かせるべく、黒いマスクを首にかけて深呼吸した。

「つかまえた」

獲物を捕らえた獣のように恍惚した顔でぺろり、と乾いた唇を舐めた。
傍から見れば、色情を駆られるかもしれないが風間にとっては恐怖の対象でしかない。
青褪めながら後退りしようとしても後ろは壁で塞がれている、前はがっちり両足で固定されて動けない。

「だから視察は嫌だったんだ!ああああ、長官恨みますからねっ!」

鳴神学園には絶対行きたくないと主張したのに受け入れてもらえず、仕方なく行ってみればこの有様だ!気配を消しても匂いでバレちゃ意味ないし、両手で顔を覆ってすんすん泣く風間をよそに。

「此処に来るほど俺に会いたかったんだな、かわいい奴」

オールバックで剥き出しになっている額に軽く口付けると勢いよく両手を顔から離し、その部分を袖で拭った。

「今、嘆いたの聞いてた!?ていうか、この時間帯は授業中でしょ君!」
「授業よりお前が一番大事だ」
「大変嬉しくない告白を有難う!……いいから退いてくれ!」
「風間」
「何!?」
「此処、よく見たらお前に犯された所だ。懐かしいな、ふふふ」

あまり人が通らない裏庭は時代に翻弄されず、未だに面影を残していた。そんな場所を見て笑顔になる理由が全く以って分からない。

「嫌なことは思い出さなくてよろしいっっ!」
「思い出したらしたくなった。しよう」
「僕に拒否権はないのか!」

むらむらむらむらむら。そんな効果音が聞こえるくらい興奮して有無も言わさずに自身のネクタイを解き、次に風間の柄の悪いシャツを剥がしにかかった。

「お願いだから人の話を聞いてくださいっ、あ、まて、やめろっ!わ!ああああ―――ッ!」





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