かつん、かつん。

程よい音を生み出しながら、屋上の出入口を思い切り全開にすると流れ込んだ風と共に一面の青空が目の中に入る。昼間は窓から日光が差し込むので、殆ど蛍光灯を付けない室内から一気に明るい場所へと移り変わったせいで眩しさに耐えられず目を瞑った。暫くしてゆっくり瞼を開くと綺麗に見渡せる風景に胸を打った。

が、違和感が一つ。

取り敢えず、足を踏み入れてフェンスの端から端まで視線を巡らせた。心に残る違和感は拭えず、少しマスク越しに溜息を付こうとした時。

「だーーーれだ!」

急に訪れた暗闇の中から、気の抜ける声で呼び掛けられて余り驚きはなかった。別の意味で溜息を付いて、そっと目を隠す手を外して後ろを振り向く。

「お前なあ」
「へっへっへっ」

匂いで分かるから意味ない、と一言吐くと本当に犬みたいな鼻だねえと笑われた。ただのクラスメイト程度の関係であれば心の中でひたすら悪態を付いていたに違いない。両手で抱えていた物を一つ取り出して見せ付けてやると、直ぐに笑いを止めて目を輝かせた。

「お目当ての物だよ。母さんからお前にって」
「やったあああああ綾小路好き!!!!!」

身長差があるので簡単にすっぽり胸の中に収まる。今まで特異体質のせいで級友とのスキンシップ経験が無い身としては凄く気不味い。迫り来る動揺をぐっと抑えて、弁当が潰れると言うだけでさっさと離れてくれた。皺になってしまったワイシャツを正して、食事タイムに突入した。



*



「風間。お前、まだクラス中には黙ってるのか?」
「んあ?」

一心不乱に弁当を掻き込む風間に声を掛けると、ご飯粒を口の周りに一杯付けた顔が現れる。もう一回同じことを口にすると返事の代わりに頷いた。

「そんなに見栄張りたいのか」
「いいでしょ、此処では普通の高校生でいたいんだよ。ぼかぁ」
「でも、素直に打ち明けたらきっと」
「綾小路」

しつこいよ、と睨まれた。ご飯粒を付けたままの顔で言われても凄味が感じられない。どんどん無くなっていく風間の弁当とは裏腹に綾小路は緩やかに食べながら話題を変えた。

「じゃあ何で、外では凄く好い顔するんだ?」
「色々くれるからね!助かるんだよね!」
「だから、こないだ家に来た時やたらと……」
「半分ゴマをすったけど、本当に綾小路のお母さん美人で、ご飯もうまいし、あったかいお風呂も、あったかい布団も良かった!も〜〜幸せだった」

ご満悦そうに回想する風間を見て、こんなに喜ばれるなら、また泊まりに誘おうと決めた。同時に、やはり納得が行かない部分があったのでもう一度聞くと素早く切り捨てられた。

「ふーん。それ此処でも」
「僕のプライドが許さない」

どんなに隠し通しても、嘘はいずれ発覚する。それを待つ他ないと判断した綾小路は黙って食事に集中した。逆にいつの間にか食べ終わってしまった風間は蓋を閉めて弁当袋に仕舞い込んで紐を結ぶ。

「ふふ」
「何だよ」
「いやあ、綾小路にバレた時は本当どうしようかと思ったけど……」

僕が貧乏だってことを誰にも言わないでくれてるのが有難い。いつも傲慢な態度を取る風間が笑顔で感謝するのを、誰かが見たら天変地異の前触れだと思うだろう。しかし、これが風間の素だ。

「色々とお世話になってるから、次は僕ん家泊まる?何もないけど」
「えっ。……あ、じゃあまた何か持ってくるよ。母さんも風間のこと気に入ってたから絶対何か作ってくると思う」

全部食べ終わった弁当の蓋を閉めて、ご馳走様と呟いた後にふっと陰りが入って何事だと顔を上げると。

「やったあああああ綾小路大好き!!!!!」










また、動揺が再発した。















あたたかくて、くすぐったい