「うっ!う゛!ンーーーー!!!んッ!!」

生徒達によって使い込まれたマットに仰向けで倒すと、直ぐ片手で口を押さえて容易に起き上がれないよう仕向けた。想定外の展開に混乱している綾小路の紺色のショートパンツのゴムに手を滑り込ませると、ようやく事の重大さに気付いた綾小路は力一杯藻掻き出した。

「!?」

全体重を掛けて押さえ込まれているせいで、少しも抜け出すことが出来ず焦りを覚える綾小路を満足気に眺めつつ、剥き出しにした腹を撫でる。体操服は制服と違って楽々脱がせられるのが良い所だと実感した。

「う゛!!!う!うぅう゛!!っっっ!!」

下着の中に仕舞い込んである性器を掴んでゆるゆる扱き出すと、ぴくり身を竦ませた。勝手に事を進める風間を止めるために、綾小路は口を封じた手に爪を立ててくぐもった声を更に上げる。

「どうどう、暴れないの。埃が立つでしょ」

皮膚に爪が食い込んでいるのにもかかわらず、痛みを表現せず優しく諭す姿を見て愕然とした。恐怖に駆られて固まっている隙に人差し指でぐるり円を描くように弄ると腰を浮かせ、マットを蹴る運動靴の先がピンと立つ。

「ッ!!」

綾小路の隠れた激情を大変気に入った風間は過剰な反応にも興味を持ち、先端を数回突付いたり引っ掻いたり弄り倒すと自分の意志とは関係なく滲み出た透明の汁が指に絡んできた。先走りだ。指の腹で蓋し、そのまま擦り合わせると摩擦でにちゃにちゃ粘着く音が辺りを包む。

「ふ、う゛っぐうぐッ、ン!うっ!」

幾度も刺激を与えられてがくがくと小刻みに震える足を見ると、我慢の限界をそろそろ超えそうだ。べた付く体液と一緒に根本を掴んで薄い茂みの感触を味わった後、乱暴に上下に扱くと反応が先程よりも強いものに変わった。

「ン゛、ンーーーーーー!!!」

身体の本能は、面白いほど本人の意識とは関係なく動くので残酷に出来ていると思う時がある。綾小路の必死の抵抗も及ばず、我慢の限界、もとい絶頂をとうとう迎えた。背中をしならせ、全ての精を出し尽くすと力なくぐったりとマットの中に沈んだ。

「ふーっ、ふ、…ンー、う゛っ…ッ…」

精液の感触と熱さの余韻を味わっていると、未だに口を封じていた方の手に冷たいものが伝う。見上げると綾小路の睫毛に絡まった涙が重力に倣って頬を濡らしていた。

「……ぐっ……」
「………………」

たった、たったそれだけの光景に風間は目を離せないでいた。数秒後、何も言わず手を離して綾小路を自由にした。…訳もなく、下着ごと掴んでショートパンツを下ろす。

「……本当は、此処までにしようと思ったんだけど」

そのまま両足をこじ開け、抵抗できないよう身体を滑り込ませて綾小路の体操服の裾を掴んだ。射精後の倦怠感で反応が薄い綾小路の半開きの口内に捩じ込んで、話の続きを再開する。

「僕の存在を覚えて貰う為に、痛くしちゃうけど悪く思わないでね」
「……!?」

元々、女子を引っ掛けるつもりでいた風間はポケットの中に仕舞い込んでいた携帯型のローションを取り出した。とても女性に気を遣える優しい紳士だろうと心の中で称賛の拍手を送って、器用に片手で蓋を開け放つ。手の中に残る精液で少し拡げた後孔の中にたっぷりと注ぎ込む。

「―――――――!!!!」

ベルトを解いて熱で怒張した性器を無理やり奥まで突き入れて栓すると肉壁が馴染まず、許容の限度を知らせた。急激にやって来た苦痛に耐えられるわけもなく、声にならない悲鳴を上げて歯を噛み合わせる。先程、口内に捩じ込んだ上着の裾がマウスピースのように衝撃吸収の役目を果たす。

「ウ゛――――っっっ!ィぎっ!!、――っっ!!!!!」

代わりに、覆い被さる風間を引き離そうと躍起になって両手の爪を背中に食い込ませて血の匂いを醸している。下の方もローションを全部使い切ったから安全とは確実に言えない。少し動かすだけでも痛みの声を上げる綾小路の態度からして、少々切れているのかもしれない。互いの混じり合った血の匂いが鼻孔を擽り、別の意味で興奮した。

「ッ、ふ、ぐぅウゥっ、うっ…い゛、ぐ」
「っ…あー…すごい、きつい……は…」

進む度にぎゅうぎゅう締め付て侵入物を拒むスタンスで笑いが出そうになる。少し、力を抜いてもらおうと萎え切った性器に手を這わす。そのうち、痛みを拡散しないと身が持たないと勝手に判断を下した脳が防衛反応を起こし始めた。ローションと一緒に色々な体液が混じり合い、粘っこい音を立てて直ぐ性の匂いで満たされる。

「ぎ、い゛、うううぅう゛っっ、ぐ!っ、ウッ、アっ、!ッ!!」

時折、半分になった上着の中から見え隠れする突っ立った乳首が余りにも卑猥で、戯れに身体を折り畳んで唾液を含ませた舌で這うとくぐもった声が体操服の隙間から漏れる。そのまま前歯で甘噛みして吸うと一瞬のビクつきと共に腰を浮かして、より奥を抉る事になった。無自覚でやっているのが実に滑稽だ。

「ふ、はは」

柔らかい胸の感触もないのに。下に男性器が付いているのに。――衝動的に口を奪った時に見せた絶望と憎悪の混ざりあった激情の、再現を見て自身を熱くした。これじゃあ自分も雪ちゃんのこと強く言えないなと苦笑した。

「はー……、はは、きもち、」



「いい」



*



「どうしたの、ゆき?凄く顔色悪そうだけど」
「え」

机に突っ伏して寝ている所を雪に見られた綾小路は慌てて顔を上げた。生徒を詰め込んだ教室の中が随分とがらがらに空いているのに気付いて、もう放課後なのかと時間の感覚が曖昧になっている。

「そう見えたか?」

顔色の悪さを告げられ、自身の顔を軽く撫でた。ついでに目の焦点を合わせるべく、閉じた瞼の上から目を擦る。

「うん…また何かあったのかなって」

『何か』という単語だけで一気に暴力的な出来事が頭の中で展開され、がつんと殴られたような痛みが腹にまで伝わって胃液がぐっと迫り上がりそうになるのを堪えて否定を表した。

「……! い、いや、そうじゃないんだ。少し疲れて…」
「そう?無理しちゃだめだからね」

眉をハの字にして不安げに見詰める雪を見て荒んでいた心が少しずつ解れていき、自然に笑みが溢れた。

「ああ、……大丈夫だ」
「じゃ、一緒に帰ろっか?」

いつの間にか一緒に帰ることが日課になっているのが、とても嬉しい綾小路は間を置かずに頷く。すると笑顔で、廊下で待ってるねと鞄を握って雪は先に教室から出た。ぱたんとドアを閉めた途端、廊下の壁にもたれていた風間が薄く笑った。

「残酷だね。わざわざ思い出させるようなことを言うなんて」
「……ふふ」

先程の柔らかい笑顔とはまた違った、濃密な――夕暮れ時に見せた笑顔にぞっとした。

「男って、単純で出来てるよね」

可愛らしく首を傾げて雪は感謝の言葉を風間に述べた。



「有難う」



(ああ、やっぱり女って怖い生き物で出来てるなあ)







背徳はぼくの手のひらの上





17/07/17  絶望感に塗れる綾小路に欲を見出す風間。