※風間と雪の間に産まれた祝捏造。




コンコン。

音楽準備室のドアを軽く叩く音を拾った綾小路は、机の上に散らかした書類を掻き集めながらそのまま中に入っても構わないと返事をすると静かに扉が開く。

「失礼します」

ローラー付きの椅子に座っているので、綺麗に集めた書類を机の脇に置いてから足に力を入れて出入り口前へと回した。すると鳴神学園の制服が見える。徐々に視線を上に向けると一年であることを記す肩章も見えてきた。

「っ!」

綾小路の前へやって来た生徒を完全に捉えた時、思わず唾を飲み込んだ。驚いて声を上げなかったことは自分自身で褒めたいが、教師として見せていい表情ではなかった気がする。失態した。気不味そうに口を覆う黒布の皺を正して、本題に引き込んだ。

「何の用かな」
「プリント。全員集まったので渡しに来ました」

言われて数分前、音楽のことに関するアンケート用紙を配っていたことを思い出した綾小路は立ち上がる。わざわざ休み時間を割いてクラス代表として此処までやって来たのだ、無碍に追い返すわけにはいかない。

「ああ、申し訳ない。…有難う」

我が道を行くタイプだと思っていただけに、全員分のプリントを手にしているのが非常に珍しく感じた。後は礼を言って受け取るだけだ…と考えると少し緊張が解れたのだが、次の瞬間、そんな嬉しい展開は起きなかった。受け取ったプリントの束を引こうとしてもびくともしない。ぐ、と握りしめたプリントの束に皺が入る。流石に想定外の展開に困惑する綾小路を前に、生徒の口が開く。

「ボク、先生のこと好きだから」
「は」

前触れもなく出て来た告白を受け切れず、間抜けな声が零れ出た。

「……確かに父さんのしたことは、許されないことだけど」

父さん、という言葉に身を固くする。中等部の卒業式に繰り広げられた痴態を思い出して苦虫を噛み潰したような顔を作ってしまう。



「やっぱり、綾小路先生から無視されるのだけはイヤだ」



「――――」
「用はそれだけです。じゃあ」

無遠慮にノックもせずに入って来る生意気な子供はもう居ないのだと、綾小路は悟った。きちんと頭を下げ、音楽室から出ていく広い背中を見守る。

「……っ」

彼は何も悪いことをしていない。大人達の汚い関係に巻き込まれた可哀想な被害者。ただ、ただ、綾小路が彼を拒否した、それだけのことだ。

(ほんとうに)








(いつになったら解放してくれるんだ……風間)








教師と生徒/05





15/11/08  高校入学おめでとう。