そうして、

気が付けば逃げられない状態にいた。行動が酷く不明過ぎて、恐怖が次々と身を襲う。

「な、何を言ってるんだ、……何を……」
「分り易く言えば、雪ちゃんを君に分けてあげるってこと」

訳が分からない。ひたすら疑問を覚える綾小路に覆い被さっていた風間は言葉の意味を証明してくれた。ちゅっと軽い口の触れ合い。五指を絡ませて床に押さえ付けられているせいで、立ち上がることも逃げることも出来ない。

「まずは間接キス。嬉しい?」
「ふざっ」

かっと怒りに任せ、口を大きく開けたのが不味かった。隙を狙って、舌を捩じ込んで覆い被さっていた身体を更に折り曲げてきて、息苦しさが増える。

「うぶ、ぅ、んんん!う……っ!!」
「こうやって、雪ちゃんの口の中を掻き混ぜたよ」

舌を引き戻して笑顔で報告を続ける様を見、言葉どおり彼女を感じたものを綾小路へと全部与えようとしている。ぞっと悪寒が背中を伝った。

「長くキスをすると、そうそう、そうやって蕩けてたなあ。かわいかった」
「…………っ」
「うん、すごくかわいいよ」

過去形から現在進行形に切り替われ、綾小路に言っているのか彼女に言っているのか分からず錯覚を起こしてしまう。押さえ付けていた手をそっと外し、そのまま上着を捲り上げようとする風間に狼狽した。咄嗟に自由になった両手でがっしり両腕を押さえ付けた。

「やめろ!」
「君達のご両親、今は旅行中なんだってね。雪ちゃんから聞いたよ」
「…………!」

唯一の切り札が破かれた、その衝撃は計り知れない。緩くなった手ごと進めて胸の小さな膨らみ、乳首を摘まれる。針を刺されたような小さな刺激を送り込まれ、不快感が一気に駆け巡った。

「女の子には普通に感じる場所だけど、男は感じるのと感じないのに分かれるのかな。君はどっちだろう?僕としては前者がいいな」

探るように片方は摘み上げ、もう片方は親指の腹で押し潰して捏ね繰り回される。二箇所に集中した刺激が腰に来る。びくびくと勝手に動く足を床に押し付けて震えを誤魔化そうとしたが。

「良かった!前者だね、腰が浮いてるよ」
「っ…っ!」

足と足の間に折り曲げた膝を忍ばせて、ぐっと重力を掛けられて下部にも熱が集まり出す。それに気を取られて、弄られすぎてぴんと張った乳首を嬉しそうな顔で吸われたのに気付くのが遅れた。ちゅううっと音を立てられ、羞恥心が酷くなる。

「あ、あ――!」
「雪ちゃんは喜んでくれたんだけどなあ」

ふわふわの髪を乱れさせて抵抗すると、ちゅぽん、唾液まみれになった乳首から口を離してそんなことを言われ、胸を揉まれて、吸われて、乱れる彼女を思わず想像してしまった自分を殺したい。死にたい。泣きたい。目頭から零れ出かけた涙を両手で押さえ止めようと努力した。

「う、ぁ」
「ふふ、想像した?」

抵抗しなくなった俺の顔を覗き込んで微笑んだ。好きな子の乱れる様を考えるのは普通のことだと慰めにも近い言葉を向けられて余計惨めになる。そういう対象で見たくない。

「僕も考えたよ、たくさん。数えきれない程たくさんね」

誰のことなのか、聞く勇気はなかった。目を逸らして逃げ道を探そうと身を捩らせると下部を当てていた膝が当たって熱を篭らせてしまう。どうすればいいか考えていると、そっと、足を外してくれた。かと思うと顔を下へ下へと滑らせている。

「!?」
「肌、綺麗だね」

スウェットだった為、楽に下着ごと脱がされた。止める暇もなく今までのを受けて半勃ちになった性器をぎゅっと握り込んで上下に動かす。先程とは比にならない程、直接与えられた刺激は思考を溶かしていく。というのに、それだけで飽き足らず赤くなった亀頭を口に含んで唾液を塗してくる。

「あ゛っ、ぁああぁあ゛やっぁ吸うなやだやだやめろ!吸っ…やっやだやだ、ぁ、あ―――!」
「ビクビク震えて、かわいい」

口から離すと透明な糸を引く。そのまま、ぬるぬる擦るとぷくっと尿道口の先端から唾液とはまた違う液体が出てくる。その液体を戻すように指の腹で円を描くと綾小路の太腿がより一層震え出した。ぴんと爪先立ちになった足が性欲を誘う。

「君も感じやすいんだ、雪ちゃんも一番感じやすい所を弄ると気持ち良さそうにしてたよ」
「は、や、あぁ、あつっ、爪立てな、ぅあっ、あっ」
「気持ち良くない?」
「う、う―――っ」

集中攻撃から逃げたかった綾小路は、必死に頭を縦に振る。納得した風間はべたついた手を離した。ようやく一息をつけて、安堵の溜息を漏らす。

「ごめん、こっちが良かったかな」
「は…え、っ、待て!あっ、ちょっ」

そっと片手を更に下の方へずらして探ると、窪みを見付ける。先程の行為で出た分泌液を擦り付けると慌てて起き上がろうとした。

「風っ…っんひ!」
「まずは一本目」

止めろと言うよりも先に、第一関節を入れ始めている感触が伝わる。絶対に起こり得ないであろう経験を受けて吐きそうだった。

「い、んーんふ、は」

無理やり腸内を押し分けて掻き乱しているのと変わらない。痛みと圧迫感と共に異物の進入に対して拒絶反応を起こす身体。それでも尚引かず、ずぶずぶと第二関節と埋めようとする。

「ひ、はっ」
「萎えてるね」

痛みですっかり萎えた性器を別の手でもう一度扱くと、短い悲鳴の中に艶が含んだ。その反応で二箇所、同時に攻めてやると爪先立ちな足で後退りする。

「ほら、綾小路。指一本入ったよ」
「ぁ、あ……うぁ……ゆ、ゆび……」

すっぽりと埋まった指を締め付ける中を確認しつつ、再び勃ち上がった性器を弄りながら孔を拡げに掛かる作業を続けた。

「じゃ、二本目行こうか」
「や、やだやめて……痛い、からいやだ、お願い、いたい」
「大丈夫大丈夫。擦ったらまた勃ったし、慣れるよ」

君は凄く快楽に弱いようだから、と付け加えて自信満々に言う風間を見て行為自体を止めるつもりはないのだと読み取った綾小路は顔を引き攣らせた。



*



何度も中を解され、指を受け入れるようになった頃には風間の言うとおり痛みより快感が増した。そろそろいいかなと頃合いを見て指を引き抜いて風間はズボンの前を少し開け、すっかり出来上がった綾小路の太腿を開いてぐ、っと標点を定めて中へ入れ込んだ。瞬間、酷い圧迫感と蕩けるような熱さが一気にやってくる。訴える言葉を構成する思考が次々と飛び散り、無理に言おうとしても喘ぎに近い声を漏らすだけにしかならない。

「ああ。中、すごく、きついね」
「あ゛、ぁっ……あ、あ」

痛いのは最初だけだから、ゆっくり優しくしてあげるね、と突き入れた状態のまま息を吐いた。慎重に綾小路の中を進めながら頬を撫でて優しくキスする。少しでも動くと圧迫した中が擦れてしまい、びくびく身体が反応を受ける。

「熱い」
「ひっ……ぅ……あっ……あ…」
「熱いね、雪ちゃんの中に挿れた時もそうだったよ」
「―――――っ」

少し汗を掻いた風間に微笑まれてかっと身が熱くなる。自分が彼女の受けたものを、もう一度受けていると思うと屈辱と羞恥が混ざり合う。

「あ、締まった。雪ちゃんと繋がってるものがあるって嬉しい?」
「違――ぁっ」

彼女のことを口にするのを止めろ。睨みつけても、さして気にせずに奥まで突く。みちみちと抉じ開けられる感触に怯えた時、何かに当たって反射的に身体を反らす。

「ひんっ!?」
「此処?此処がいいんだーもう動いてもいいかな」

一際高い声を上げた自分が信じられず、狼狽し出す綾小路は無防備で凄く都合が良かった。入り口ぎりぎりまで性器を引いて、ぐっと思い切り突き入れると悲鳴にも近い喘ぎを漏らす。こんこんとドアノックするように突きを繰り返すと、逃げ腰になりかけていたので綾小路の脇腹を引き戻した。

「あ゛っぁあ、ダメ、ああっああ、やっやだ!あ、おなじとこ、は、だめダメ、ぁあ」
「ギュウギュウだね。きもちいい」
「あっ、あ、あああ、あっや、あ―――ぁ、え……な……」
「ん?」

互いに快楽を貪り合っていた最中、後ろからドアがゆっくり開いて外気が入り込むのが分かった。視野的に綾小路が先に気付き、一気に熱を帯びた顔を蒼褪めさせた。一旦、行為を中断して風間は首だけを少し後ろへ回してドアの外を捉える。

同時に、耳元で綾小路の震える声が聞こえた。
















「ゆ―――」
















終わりの見えない恐怖






11/06/12  綾小路は絶対、雪を聖域化してると思ってる。