本当に、この学園は昼間だというのに薄暗い印象を見受ける。
窓から漏れる微かな日差しを頼りに廊下を歩いていると、驚きの声が前方から聞こえてきたので一旦歩みを止めた。
「風間!?どうしたんだ、その頬!」
「あー、うん。やっぱり真っ赤?」
頭を何度も上下に振る友人の態度で、教室に戻る前に保健室で手当した方がいいのかもしれないと来た道を戻る。何も言わない僕に不満を持ったのかモジャモジャの頭を揺らせながら付いてきた。
「どうせ、コレに叩かれたんだろ?」
小指を立ててにやつく友人、否、クラスメイトの水科を視線で一蹴した。本気で怒ると実は滅茶苦茶怖いよなお前、と褒め言葉を頂いた。
「教える代わり、手当てして」
「おいおい、保健委員いるだろ」
「今、何時だと」
一階の廊下を余裕で歩けるのはマンモス校と謳われているこの学園の広さのお陰かもしれない。授業中は魔力でも掛けられているのかと思うくらい何故か極端に人が居ないので、不良どもはそれを狙って旧校舎や外へ逃げ出すことが多かった。今後、このような不祥事が無いように警備員を付けるとか旧校舎を埋め立てる理由に入ってるとかなんとか色々な情報が入っている。
「授業中だな。アッハッハッこりゃあ悪い悪い」
「君は何してたの」
「気が乗らなくてサボり〜」
自分の肩を揉みながら横に並ぶ水科を見て、一つ思い出す。
「ああ、そういえば一応不良だったね君って。きちんと学校来るし、きちんと勉強できるし、忘れてたよ」
「気紛れなだけだよ」
「おかしな奴だね」
「風間には言われたくねえな」
軽い会話を交わしながら、保健室へと足を運んだ。
*
「うわ。お前、口の端まで切れてるぞ」
「殴られたからね」
「殴っ…!?コエー、怪力女かよ」
色々な薬品の匂いを撒き散らす保健室でガーゼを頬に当てて、テープを貼り付けて貰っている最中に言われて口の端を舐めてみると少し血の味がする。
「何したんだよ本当」
「キスしただけだよ」
「…………あー…………」
笑顔を一瞬で消し、動作を止める水科を見ながら、舌も入れたと余計な蛇足を付け加えると流石に言い返された。
「完っ璧、お前が悪いわ」
「いい思いをさせてあげようと思っただけなんだけどなあ」
もう黙れと、テープを貼り終えた直後に軽く叩かれた。それ以上のことを詮索しないのは友人に対する心遣いなんだろう。そういう所が何気に好きだ。
「ほれ、終わり。そろそろ授業も終わるから紛れ込もうぜ」
「そだねー」
片付けを終えた水科に続いて、保健室から出て三年のクラスが並ぶ教室へ戻る途中で授業の終了を知らせるチャイムが鳴った。同時に廊下へ出る生徒が溢れ返る。木の葉を隠すなら森の中、という言葉が凄く当て嵌まる光景だ。お陰で先生に注意されることもなく、H組へと辿り着いた。
「うわ、何だその頬!」
「怪我したのか?」
「痛そうだなー」
代わりに、大変目立つガーゼのせいで級友達から質問攻めに遭う。囲まれる前に僕からさっさと離れた水科は、また驚きの声を上げた。
「おいおい〜どうしたんだよ」
「手真っ赤じゃん、綾小路」
誰かの爪のあと
11/04/03 理由を書かないと分からないので続くw
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