女の子と喋った。触った。食った。もとい―――寝た。
そんなやり取りを何度行って来たか数えるのは面倒になってしまったが、男子高生としては青春を大変謳歌している自信があった。あったけれども、結局は無意味なものでしかないということを自分自身で理解してしまうのが気に食わない。快楽に溺れても一時的なもので、熱が引くと急激に冷める。残るのは虚無感だけだ。
その虚無感を常に纏いながら僕は見慣れた木製の机から顔を上げる。開ける視界の中から、すぐに一点を見詰めた。日常茶飯事に成り代わってしまったせいか、何処にいても数秒で見付け出すことが出来る。
(それもこれも、全部あいつが……僕をあんな目で見るからだ)
あんな目、というと余り思い出したくもない記憶の中に刻まれている。何度も見てきているので嫌でも忘れられない。こびりついている。眉間に皺をより深く刻みそうになった所で視野の中に入れていた物を遮るようにクラスの女子が話しかけてきた。以前は、自分から話しかけるよう試みていたが最近は億劫になっていたので凄く助かる。
「風間君」
「やあ、何かな」
元々、女の子が好きだから愛想良く接することは息するより簡単だった。それを、億劫という言葉で括るのは何故かというと、女の子と遊ぶという目的がいつの間にか違う方へ摩り替わった上、未だに達成されていない事柄だからだ。
(どうせまた、あんな目で見てる)
いつの間にか変わった目的、―――女の子を引っ掛けて楽しそうに喋るのを見て彼は何を思うだろう、何を感じるだろうと興味と期待が自分の中で何度も湧いた。湧いたが、全ては先程も言ったように良い結果は得られていない。
(人と人が喋ってる、ただそんな認識だけで直ぐに視線を他へやる)
「あの、一緒に帰らない?」
(すごく軽い存在だということを否応無しに伝えられて、酷く傷ついた僕のことなんか知らないんだろうな)
「……風間君?」
ここ最近、考えることが多くなって人の話を素通りしてしまう所があった。反応を全く見せない僕を不審に思って、首を傾げながら名前を呼ばれて我に返る。変に思われてしまっては不味い。
「あ、ああ、ごめん。誘われてつい嬉しくて言葉が出―――」
やだあ、と冗談を受け取って可愛らしく微笑む彼女の後ろで想定外のものを捉えた。彼が、此方を見ている。それも、いつもの素通りするものとは違う。
(……驚いてる?)
「だ、駄目かな?」
「ううん……全然……そんなことない。凄く嬉しいよ、一緒に帰ろう」
「やった!じゃあ待ってて、ゆきに言って来るね」
(ゆき、ねえ)
此処でようやく、誘われた女の子を把握した。彼の幼馴染で、可愛い顔立ちで有名だったのに考えに囚われすぎて頭の中からすっぽり抜けていたようだ。事の成り行きを見守ると僕と帰ることを伝えた彼女は一旦、彼から離れて身支度をし始めた。ので、自分もそうすることにした。
途端。
「―――」
自意識過剰でも何でもなかった、酷く突き刺さる視線に気付いた。リュックを肩にぶら下げながら、探し出すと物凄く睨む彼と目が初めて合う。
その時、ようやく今までの無意味な行動で得た虚無に鮮やかな色が戻ってきた。
(―――見付けた)
*
「風間君、すごくたのしそう」
「うん」
ぎゅっと手を握り返した。この温もりの中に彼のも混じっている、そう思うと嬉しい気持ちが抑えられずとうとう口の端を吊り上げてしまった。
「雪ちゃんと一緒に帰ることが出来たからね」
「恥ずかしいから口にしないでよう」
「ね、もっと可愛い顔見せて」
「あ、風間君、待っ」
生まれた時からずっと幼馴染だと聞いたことがある。とすると、お互い無意識にキスはしたことあるんだろうか?そうじゃないんだろうか?どっちにしろ、彼の前で喋った口だ。柔らかい。十分味わってそっと離れ、あの彼の態度からして、きっと触れたくてたまらなかっただろう唇をなぞってあげた。
(キスしたって言ったら)
(次は、どんな反応を見せてくれるんだろう)
罪より重い想い
11/01/25 ミッコレ1+夢幻で風→綾→雪。
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