「ありがとう」
「ん」

唐突に礼を言ったにもかかわらず、風間は反射的に受け取った。
同時に今までの経緯を思い返そうとして頬を掻いた。それを目敏く気付いた綾小路は、手袋越しに手を握って思考を停止させた。

「……デジャヴ」

涼しい顔で見ながら距離を縮めていく。辺りに人が居ないのを確認することなく、握り返すのを見て笑いを濃くした。

「……うん、デジャヴだ」
「高校の最後」
「ああ」

高校の頃は、人目を気にして嫌がっていた姿を見た。それなのに今は落ち着きすぎて物足りないというより、物寂しい気もする。沢山感じた疑問も全部消え失せてしまった。初詣と同時に誕生日祝いをしに訪れる風間の意図はもう既に読み取っている。高校の時からずっと知らない内に繋がっていた関係が切れずに伸びただけのことだ。

「今はもう隠す必要がないからね」
「―――――」

冷気に晒され、張り詰めた景色を見ながら一瞬だけ真顔になる風間に驚いて返答のタイミングを失う。考えていたことを全て一纏めにして言い返されるとは思わなかった。

「はは」

時々見せる素顔にいつから惹かれたか今となっては分からない。全部、いつの間にかで成り立って此処まできたのだと深く考えないでいた。

「ホラ、突っ立たないの」
「なあ」

手を握ったまま促されたので、一歩踏み出す。前は身長差のせいで歩調が合わなかったというのに、随分と合うようになったものだ。否、合わせてくれているのかもしれない。

「いつでも部屋、使っても構わないんだけど」
「……そーだなあ」

どうしようかなあなんて考える素振りを見せるけれど、恐らく答えは言わなくても分かっている。何も言わずに、頭の中で静かに決意を込めた。










(―――帰ったら片付けるか)






















ゆるり進化したぼくら