「ありがとう」
「え」

急に礼を言われて、風間は今までの経緯を思い返そうとして眉を顰める。それを目敏く気付いた綾小路は、手袋越しに手を握って思考を停止させた。

「なっ、何するんだ!気色悪いな!」
「誰も居ないから良いだろ」

振り解こうと頑張る様を、涼しい顔で見ながら距離を縮めていく。きょろきょろと辺りに人が居ないのを確認すると落ち着いた。

「……そうみたいだね」

こんなにも嫌がるのは女好きというポリシーを持っているゆえか、知り合いに男と一緒に居るのを目撃されたくないんだろうと綾小路は一人で判断した。しかし、そうすると沢山の疑問が次々と溢れてゆく。

(よく考えたら)

初詣と同時に誕生日祝いをしてくれた辺りで、何だかいって気に掛けてくれている。夏に起こった悪魔事件の贖罪はとうに終わっているのに、こうして友人として何気ない会話をしたり付き合っている。

「確かに、こうやって手繋いで並ぶと恋人かと間違われるかもな」
「―――――」

いつの間にか風間のおふざけ気分が移ったのか、冗談で言った言葉を何故か真に受けて真っ赤になるのが分かった。それでも繋いだ手を振り解かない所で、何だか言って面倒臭がりつつも最終的に受け入れるんだということを覚えた。

「はは」

今まで勝手に五月蝿い対象として見なして、無興味だった自分が申し訳ないなと思う。そういえば初め、あっちから目付けられてたなあなんて昔の映像が自然に流れる。

「な、何、笑ってるのさ」
「あんまりにも分かり易い行動取るなって」
「なっ!なに!?誰のこと言ってるんだっ!!??」

慌てふためく風間が急に愛おしくなって、ふっと笑みを柔らかくした。

「いや……残り、あと三ヶ月も宜しくな」
「あ、当たり前なこと言うんじゃないよ。ホラ!さっさと歩道橋わたるよ!」

握っていた手に力を入れて引き寄せられた反動で少しふらついたが、何とか持ち直してそのまま横に並んで歩き出す。その最中、頭の中で風間に向かって答えのない質問を投げかけた。










(―――自惚れても、いいよな?)






















ゆるり進化するぼくら