※特別編追加ネタバレ注意。




















「―――で、そいつは匂いに敏感で苦労して」


「お、おい」
「大川って奴が―――」
「ちょっと」

「なぁに?」

目一杯の笑顔を級友達へ向ける。
同時に不機嫌さが伝わったのだろう、びくりと狼狽する様を満足気に見つつ忠告を一つ。

「お話の途中で割り込むのは非常識だよ君達ィ」

互いに目配せて、意を決した一人が身を乗り出した。

「幾らなんでもそんな、でたらめは」
「いけないって言うのかい?最高に面白い話じゃないか。これも天才たる所以だね」

凡人達には難しかったかな、やれやれ残念だ。
わざとらしく肩を竦めると一気に場の雰囲気が変化する。その雰囲気を気にしてしまえば、個々の主張は見出されない。終わりだ。

「風間…………あいつに、悪いとは」
「思わないね」

ちらりと、視線を何処かへ向ける級友に即答すると動揺が垣間見えた。
動揺する意味が分からない風間は、級友達を憐れみの目で捉える。事情はあらかた言伝で聞いたが、別に彼の意思に同調する必要もないだろうに、何に対して気を遣っているのか疑問でしかなかった。

「生きてるならまだいいよ。とうに死んだ奴のことを想って何になるって言うんだい?ただの骨折り損のくたびれもうけじゃないか」

声のトーンを落とすように注意されたことも理解出来なかったので普段どおり人に伝わるよう喋った。本人に聞き取られやしないか焦る級友達の努力が報われることはなく黙ったまま自席から立ち上がって、ふらふらとH組から出て行くのを遠目で確認した風間は目前の問題を無にした。



*



「やぁ」
「…………」


「…… ええと」
「風間だよ、三年になって何ヶ月経ってると思ってるんだい。いい加減に覚えて欲しいね」
「ああ……僕が匂いに敏感だとか、何とかって……噂、流してる奴か」
「分かってるじゃないの。なのに何も言わないってことは真実かい?あっはっは…」

「…そんなこと、どうでもいい」

誰も寄り付かない筈の裏庭に人が現れたのが嫌だったのか、そのまま口を閉ざして立ち去る。横を通り過ぎるのを静かに見守って、後姿が見えなくなったのをいいことに自身の主張を吐く。

「どうでもよくないから、噂を流してるんでしょうが」

死んだ奴に囚われたままの彼は何も見えていない。否、見ようともしない。
そんなものは死んでるのと変わらない。…気に入らない。

視線を此方へ向いてくれるよう、何度も、何度も、作り話を築き上げていることを彼は知らないだろう。去り際に漏れた微かな呟きを思い返して気分が悪くなった。



「何が、『雪』だ」















(さっさと、僕のことを見ろ。―――あほのこうじ)















きみのその視線の

先にいるのが


僕だったらよかったのに






10/05/06  風間のホラ話という発言から生まれた。