六限が終わる放送が鳴り響いた。


同時に、帰り支度を前以て済ませた生徒達が一斉に廊下へ出る。さっさと下駄箱へ向かう者もいれば、クラブへ向かう者、教室の中で友達と雑談を繰り広げる者、様々な行動を繰り広げる様を風間はグランドから眺めた。

放課後という時間帯がとても好きなので、いつまでも見ていたい光景ではあるが、今はそういうわけにもいかない。
 
「あーやのこーじぃー、中で気絶してないだろうねえ!」
「んなヘマするかよ……」
 
薄暗い体育倉庫の中から呆れた顔を見せ、がたがたっと軋むドアを閉めて先生から受け取ったであろう鍵をかけた。体育の授業で使われたテニスのネットを包んで後片付けに勤しんでいた綾小路に付き合ってあげたのに冷たい態度で対応された。手伝わなかったのが気に入らなかったんだろうか、しかしこの仕打ちはないんじゃないかと、口を尖らせる。
 
「そう言っておきながらジャージ忘れたの、どこのどいつだろう〜」
「…………そういうこともあるんだよっ!悪かったな!」
「あーそんなこと言っていいの?せっかくこの優しい僕が上貸してやったっていうのに」
 
肌寒くなった季節に無理するんじゃなかったよ、おお寒い寒い。
露出した白い腕を手のひらで擦りながら嫌味を向けると、うぐうと声を詰まらせてジャージの襟にマスクごと隠した。体格差の違いがはっきり見て取れる程、ぶかぶかだ。かわいい。

「半袖半ズボンで体育やるなんて最悪だ、凍え死ぬ、死ぬ。休む!あと何か、知らないけど視線が痛くなるから絶ッ対嫌だ!!って駄々こねてたのだれ?」

倉庫のドアの前で、綾小路の通路を塞ぐと観念して顔を俯きながら呻いた。かわいい。一緒に受けていた級友達はとうに着替えに走ってしまってグランドには誰一人も存在しない。助けを呼んでも意味がない。

「都合よく僕の匂いだけ平気で助かったでしょ?ん?」
「う、うう…………」

下だけジャージでも寒いものは寒いの、言ってる意味分かるよね?首を傾けて綾小路の顔を覗き込むと何やらマスク越しに口をもごもご動かしている。本当にかわいいなあ。

「?」
「……ぅ………」



「あ、ありがとう……」



物凄く集中していなかったら聞こえなかったであろう小声が入り込んだ。ぶかぶかのジャージに、真っ赤な顔で、上目遣いという三連コンボは理性という柱を簡単に壊してくれた。

「!?」

腰を引いて、そのまま驚く暇も与えずに唇を奪うと声のならない悲鳴の代わりに背中を思い切り叩かれた。それすら心地良く思えてしまうほどかわいいなあ。

「ななななにするんだ!」
「いや、あんまりにも可愛くて、つい」
「ついじゃないだろっ!!男に可愛いって言うな!気持ち悪いだけだっ」



「じゃあ、たべたい」
「しねばか!!!!」










「体育の時からずっと僕の服を身に包んでる綾小路を見て思ってたのに」
「最ッ低だ!」






















(せかいは)彩りあふれて