与える愛か 奪う愛か
※アパシー流行り神ネタバレ注意。
下校時刻を過ぎた学園は闇という色で染め上げられ、酷く不気味さを覚える。昔と全然変わらない雰囲気に飲み込まれそうになりつつも、業務に没頭した。
(思えば昔も、こんな時間まで旧校舎でがりがり魔方陣を書いてたな)
今は取り壊されて旧校舎の面影すらなくなってしまったが、記憶の中では酷く鮮明に残されている。元々、学園の中で一番噂になっていたこともあるが、それだけの理由だけではないだろうなと何故だか確信を持っている。
(……懐かしい)
一度、過去の記憶を開けると洪水のように溢れてきた。嫌なこともあれば、良いこともあった、と思う。懐かしい記憶に浸りつつ、スーツのポケットから携帯を取り出した。
電話することもなくメールで、たった二文字。
来い、と。
*
仕事を終え、自宅に着いて、鍵を取り出そうとして鞄を探る手を止めた。
ドアノブに手をかけると思ったとおり開いていたのでそのまま入って靴を脱いで居間へと移動すると聞き慣れた高い声が耳につく。
「やあ、食事にするかい?風呂かい?」
我が家のようにソファで踏ん反り返りながら足を組む嫌味ったらしい奴の所へ足を運ぶ。
その最中、黒いマスクを取り外して机に置いた。
「それとも―――」
「言わなくても分かってるだろ」
次にネクタイを緩め、奴の上に乗りかかると楽しげに笑って腰を引く。昔と変わらずいい匂いを放つ為、自然に擦り寄ってしまう。
「つい前まで生徒達に指導していた奴の行動とは思えないな」
「教師だって人間だ。望んで何が悪い」
ちっとも悪くないね、むしろ仕事帰りを襲うなんて興奮する。なんて色欲なことを言いながらベストのボタンを一つずつ外してくれた。
「とりあえず」
スーツを脱がしにかかる奴の唇を思う存分味わいながら、聞き入る。
「おかえり、行人」
「ああ、ただいま」
「望」
10/01/04 家の中では名前を呼び合っていたらいいじゃない。じゃない。