怖い話なんて自分には出来ないから僕が聞いた話をしようか……。

実は、僕は悪魔召喚に凝っている。凝っていると言うのは変だが、そう表現した方が皆にはわかりやすいだろうな。実際に、これまでに何度も悪魔を召喚してきた。下級から上級にいたるまで様々な悪魔を呼び出してきた。そして召喚を繰り返すうちに、面白いことがわかった。

悪魔は、召喚された国によって、それぞれに異なる呼び名があるということだ。悪魔なのに、日本では「山田一平」と呼ばれているとか言う奴まで出てくる始末だ。人間なら普通でも、相手は悪魔だろ?

しかも、会話の時によく知られている一般的な悪魔名で呼ぶと一々「私は山田だ」と訂正を入れてくる。

けどな、つくづく思うのは悪魔よりよっぽど人間の方が、酷いって話だよ。

*

ある日、僕のクラスに転校生がやってきた。
それはもう最悪な奴で、ともかく臭い。何が臭いって、その存在自体が臭いんだ。

しかも最悪な事にそいつは僕の隣席になり、なぜか懐いてくる。最悪な事この上ない。しかし、そいつが悪魔と言うわけじゃない。確かに苦しむ僕を知っていながら擦り寄ってくるのは悪魔と呼べる諸行だが、それ以上の悪魔が僕のクラスには存在したんだ。

最初、僕にとってそいつはどうでもいい奴だった。ただ喋り方がウザいのと、普段の態度が気に障る程度だった。関わらなければ、そう気になる存在でもなかった。しかしそいつの性根は腐っていて、その転校生いじめを率先してやるような奴だった。自分より強いものにはどうだか知らないが、弱いと判断して面白そうなら、とことんいたぶる、そんな奴だった。

僕は転校生がどうなろうと構わなかったが、あろうことかそいつは僕に目を付けたんだ。理由は面白そうだから…だからだ。僕は毎回休み時間になると教室を出た。転校生の臭いが酷くてあんな狭い空間にいられなかったからね。しかも、臭いの元凶の転校生は、何故か僕の傍に寄りたがる。最悪だ。僕は逃げる、転校生は追う。その繰り返しだ。

あいつは、僕たちのそのやり取りが面白かったんだろう。

そいつは転校生に余計な情報を横流ししやがったんだ。僕の部活の情報を、だ。
僕は吹奏楽部に所属してた。パートはトランペット、次の大会に向けて、チームで練習をしていたんだ。だが、その部活の平穏が破られた。そいつから情報を仕入れた転校生が吹奏楽部に入部してきたんだ。

吹奏楽部の連中は、優しい連中だったからな。入部を志願するものを無碍にするわけにもいかず、暖かく迎え入れた。しかし、奴は僕と同じトランペットのパートを希望しやがった。まさに悪夢だ。地獄だ。僕は転校生と距離を保つために、転校生の指導を実力のある後輩に頼んだ。幸い、部活の中には僕への理解がある奴が多かった。それが救いだったが……転校生は執拗だった。

僕がちょっと目を離した隙に……僕の……僕の大事なトランペットが奴の餌食になったんだ。奴は、僕のトランペットを唾液でベタベタにしやがったのさ!僕は耐え切れなくなって仲間が止めるのも聞かず、部活を辞める事にしたんだ。

それからの僕には、如何に転校生の魔の手から逃れるかしか考えられなかった……今から考えると完全なノイローゼ状態だったんだな。色々と奴に対する対抗手段を考えては実行したが、どれも外ればかりだった。

そんな時、僕に声を掛けてきたのが……あの悪魔のような男だよ。そう、僕が最も憎んでいる男だ。

そいつは、僕に解放されたくはないか……と声を掛けてきた。まさに悪魔の囁きだ。しかし僕は、藁にも縋るような思いでその話を聞いた。そいつは、殺人が非合法ならば、証拠を残さないで殺せばいい。そう言ったんだ。僕もそうだと思った。この国は、疑わしきは罰せずがモットーの国だからな。こうなれば、残るは殺人に縋るしかない。しかし、問題なのは、その方法だ。

するとそいつは、あろうことか本物の悪魔との契約を持ち掛けてきたのさ。悪魔との契約……そんな非現実的な事は思いつきもしなかった。第一、その方法だってわからない。そう言う僕に、そいつはすべての道具は自分が集めると言ってきた。だから君はその通りに儀式をすれば良いだけだってね。場所も日時も道具も、すべて用意すると……。

半信半疑だったが、僕は奴の言うとおりにしたよ。転校生……あいつを消せるのなら、何でも良かった。そして、あいつはその道具とやらをすべて用意したのさ。それが本物なのかどうかまだ疑わしかったが、僕は悪魔との契約の儀式をを開始した。そして初めての儀式にも関わらず、悪魔を呼び出すことに成功したんだ。

僕は願った。転校生の死を……。そして悪魔は俺の命と引き換えにその願いを聞き入れたんだ。僕はこれであの転校生から……あの地獄のような臭いから解放される。

そう思ったんだ。なのに……それなのに。

なんと、呼び出した悪魔の正体は、あの転校生だったんだよ。悪魔は死なない。元々死んでいるんだから……。こうして僕は転校生から逃れるどころか、逆に転校生に囚われの身となってしまった。死んで逃れようとしても、もう無駄だ。悪魔は死んだ僕の魂を好きにする事が出来る。生きても地獄、死んでも地獄だ。まさに、その言葉どおりになってしまったわけだ。

だがな、僕はその後冷静に考えたんだ。何が原因だったのか……。そこで、気が付いたんだよ。あいつ……僕に悪魔との契約を持ち出した、あいつ。

あいつが最初からすべてを知っていたとしたら?すべてを知った上で企んでいたとしたら?人の不幸は蜜の味って言うじゃないか。あいつは、そういう奴だ。あいつは、最初から不幸という名の蜜を味わいたくて僕にその話を持ち掛けてきたんだ。おそらくは転校生の正体を知っていて、それでワザと僕に悪魔の召喚を勧めたとしたら?すべての道具は奴が用意していた。これはすべて仕組まれた事……悪魔の転校生と悪魔以上に非情なあいつとの連携。僕は嵌められたんだ。

僕は今も独学で悪魔召喚を学んでいる。そして、悪魔以上に非情なあいつを殺しても問題ないことに気が付いた。悪魔でも妖怪でもない、一番おぞましい人間は、やはり抹殺するべきだということをね。そう、風間望。お前を抹殺することにした。

*

そういうと、何を思ったのか綾小路さんは懐から一丁の拳銃を取り出したの。何?ちょっと、綾小路さんと風間さんには深い因縁があったわけ!?一同が言葉を失って見守る中、何故か拳銃を向けられた風間さんは腕を組んだまま落ち着き払っていたわ。

「やだなあ、綾小路君たら。人の親切は素直に受け取るべきだよ。まさかキミが、そんな目で僕を見ていたなんてショックだよ。僕はね、ただ親切心で…」
「うるさい、黙れ」

バァンという銃を撃つ音。風間の額に銃口の穴が開く。声をあげる坂上。

「うわあーーーーっ!!」

「風間……お前が今日、ここにいることは知っていた。だから、俺もここに来た。お前を殺すためにな。自業自得さ」
「何が自業自得だって、綾小路君?」
「お前!まさか……!?」
「つまんないなぁ、人間は。ちょっといじっただけで、すぐにムキになるんだから。そんなので生きていて楽しい?」
「素晴らしい……!銃で額を撃ち抜かれて生きている。なんという貴重な実験体だ。き、君、すぐに科学準備室で一緒にお茶でも飲まないかね?」

「そうか……お前も悪魔だったのか。道理で、納得いったよ」
「僕が悪魔?つまらない冗談、よしてくれよ。僕の名前は……」






「我が名はマザーカ。大天使マザーカ!!悪魔などと一緒にするでない、外界のものよ。外界の暮らしにも飽きてきた。サラバだ!!」