「綾小路先生は好きな人いるんですか〜?」
「好きな人?」

廊下で生徒たちに呼び止められて、そう言われた。これまた面倒臭い質問にぶち当たったなあと、ぼんやり他人事のように思うと好奇心に満ち溢れた生徒たちの目が痛い。さっさと興味を別に移すべく思考を巡らす。

「そうだなー…」

と、丁度いい所に全身ジャージを纏いながら欠伸をして横を通り過ぎる奴が目に付いた。

「新堂先生かな」
「えー!新堂先生が好きなんですか〜〜」
「きゃー!危険な香りー!」
「ぶほっ」

好きな人、という単語を耳に入れた新堂は盛大に吸った酸素を吐き出した。それとも、吐き出したから二酸化炭素になるんだろうか。下らない考えは此処までにしておこうと思考をシャットアウトした。

「お前なあああ」
「あはは」

思い切り怒声を上げる新堂の威圧感に押され、生徒たちは慌ててお辞儀して逃げた。それ以外では人気のある先生なのである意味、得しているのかもしれない。

「ったく!風間に似てきたんじゃねえの。昔はそんな冗談言うような奴じゃなかっただろうに」
「あー…」

昔は距離を置いてたから、なんて今更話す事柄でないので曖昧に返事を返す。と、いつの間にか窓際から明らかに内部者ではない者がこちらを面白くなさそうに見ていた。相変わらずド派手な服装が目に付いて仕方ない。

「………………」

アポもなしに勝手に学園内にするすると入れるのは一種の能力といっていいかもしれない。何度、注意しても意味を成さないので新堂も俺も視線を交わすだけ交わして黙る。返す言葉が特に浮かばなかったので、展開を区切った。

「新堂」
「ハイハイ。いちゃいちゃすんのも程々にしろよ、全く…」

呼び掛けただけで全部、理解してくれる所は大変有難かった。高校時代からの付き合いによる賜物だろう。背中越しに手を振りながら去っていくのを確認した後、窓際に向き直った。窓枠に身体を預けていた為、自然と見下ろす形になる。

「のーぞむ。何、妬いてるんだ」
「妬いてない」

首を傾げながら聞くと、そんな返答が返ってきた。

「ふーん」
「お、おい!何処行くんだ!?」
「何処って、音楽室」
「な、なな、何だよ、何だよ。折角遊びに来たっていうのに何だ、君は」

ちゅっ。

黒布を少しずらして、主張する風間の口に触れると大人しくなった。
再度、首を傾げて聞く。

「今日は帰ってくるのか?」
「しょ、しょーがないからね!」

「………………」

無言で言葉を待った。





「うん、帰る」





君の言葉に低温やけど





10/05/25  初っ端から同居でなく、何度も来て寝泊りしてそのまま住み着いたらいい。