「先生」

呼ばれた先生は顔を上げて、声の主を確認する。

いつも、髪を後ろに薄いピンク色のリボンで纏めてよく笑って好意を持って纏わりついてくる可愛い女の子だった。何故か今日に限って落ち着きがないことに気付いた先生は、何かなと微笑みながら首を傾げると真っ赤な顔で一通の手紙を目前に突きつけられた。
いかにも女の子が好みそうな薄いピンク色が印象に残った。

手にした先生は、女の子が背を向けて走り去っていくのを静かに見た。



ただ、それだけだった。



*



「―――それ」

就寝時間が過ぎた夜の病院は非常階段以外、ある程度、電気が消されて闇にも等しかった。そんな闇に紛れて一つの部屋からドア越しに明かりが漏れる。迷わず入ってみると目に映ったのは。

「手紙、か」
「可愛い患者さんから頂いたんだ。ヤキモチか?」

視線を合わせずに業務を終わらせる準備に勤しむ先生に対し、静かに吐いた。

「奇遇だなと思って」
「へえ」

小脇に抱えた黒塗りの鞄の中から一通の手紙を取り出して、机の上に置いてあった手紙の上に重ねた。同時に、五指を絡み取られた。

「今日も死体が欲しいんだろう?」

いいのが見つかったんだ、愉しげに指一つ一つ口付けるの様を見て悟った。

「……ああ、今日は楽しかったんだな」
「ああ、楽しかった」

ベッドに置かれたクーラーボックスはもう日常化していた為、尋ねることはしなかった。
ただ、その横に手紙と同じような薄いピンク色のリボンが無造作に放り投げられていた。

「―――凄く、楽しかった」
「好意を寄せていたのに酷い奴だな」
「聞いたぞ。鳴神学園から一人女生徒が居なくなったらしいじゃないか」

「さあ、何のことやら」

手を引き寄せて、子供が母親に甘えるよう腰に抱きつく。

「綾小路」
「……日野」





「望むものは―――何?」






人は壊す為に創りだす

愛は崩れる為に聳え立つ